ヒマラヤトレッキング日記
〜 カラパタール / EBC トレッキング編 〜


2004/4/8 (Thu)

快晴、のち曇り

起床(6:00) → 朝食(6:45) → Phunki Tenga (3,190m) / Ever Green Lodge 発(7:25) → たて at 3,325m (7:40〜7:45) → 写真撮影のたて at Sanasa 手前(8:25〜8:45) → Sanasa (3,380m) 通過(8:55) → たて at Kyangjuma / Ama Dablam View Lodge 前(9:02〜9:25) → 写真撮影のたて at LPVP Everest (9:45〜10:20) → Namche Bazar (3,446m) / Thamserku Lodge 着(10:55) → 昼食(11:40) → ケサブ君と電話をかけに行く(12:30〜13:40) → シャワー(14:20〜14:40) → Internet Cafe (15:00〜15:45) → 夕食(18:30) → 就寝(21:00)

(Phunki Tenga 〜 Namche Bazar 歩程: 3時間25分

「のんびり行こうぜ」

ストーブの上でも香が焚かれる ダイニングで寝た連中が寒かったためか、川の音で寝られなかったのか、今日は皆早起きで 6時には全員起きてしまった。洗顔と歯磨きをしてからキッチンに行ってみると、みんな火の周りに集まってお茶を飲んでいる。すぐにチャーを頼んで、キッチンの窓枠にさりげなく焚かれている香の煙を見ながらゆっくりと暖まる。朝メシには、チーズトーストと目玉焼きを二個注文。二階のダイニングでもストーブの上で香が焚かれているので昨日のイギリス人と話をしながら写真をとる。

今日はナムチェバザール (Namche Bazar / 3,446m) までの短い行程なのでとても気楽にのんびりといった感じだが、イギリス人よりは一足早く 7時25分には出発する。Ever Green Lodge を出るとまず最初に 250m の登り返しがある。プンキタンガ (Phunki Tenga / 3,190m) は行きの行程ではナムチェバザールからタンボチェ (Tengboche / 3,867m) まで、250m 下って 650m の登り返しというトレッキング中でも有数の難所であったが、今日はその 250m 下った分を谷底からいきなり登りあげるということだ。朝イチの一本目なのでなかなか厳しく、あっという間に暑くなったケサブ君が上着を脱ぐためにたてる。そこを出発する直前に、さっき別れたイギリス人とそのガイドの二人組みがやってくる。ガイドは自分の荷物をお腹に、お客さん (=イギリス人) の荷物を背中に背負っていて結構きつそうだ。同じところで休憩を取っている彼らを置いて出発する。

今日は、ところどころで小さなバザールが開かれている。その度にケサブ君と TRB が興味深そうにあれこれ商品を見ている。今日は行程にゆとりがあるし、ナムチェバザールにもロッジは山ほどあるので急ぐ必要はまったくなく、好きなだけバザールを物色することができる。ケサブ君に聞いてみると、彼らはチベットからヒマラヤを越えてやってきた行商人で、この辺りのバザールで買う方がカトマンズで買うよりも圧倒的に安いのだが、売られている商品はすべて中国製だそうだ。ケサブ君は CD Player や羽毛のシュラフに興味を示しているが、その羽毛シュラフの手触りはいまひとつ羽毛らしからぬ感じで、やはり購入までは至らない。TRB は TRB でジャケットをあれこれ試着したりしている。

イギリス人一行も到着。やはりガイド君はバザールの商品を物色している。今日は彼らとずっと一緒に行動することになりそうだ。
ケサブ君は CD Player に興味あり

Phortse の集落と Tawetse 今日は天気もいいし、そんなペースでぶらぶらと進んでいくのはとても気分がいい。後ろを振り返るとポルツェ (Phortse / 3,800m) の集落、その上には真っ白なタウォツェ (Tawetse / 6,501m) が聳え立っている。写真を撮るためにしばし休憩。追いついてきたイギリス人付きのガイドが、
「いっぱいカメラ持ってきてんだねぇ...」
と感心している。
イギリス人の方は、
“Are you professional? (あれ? プロだったの?)
と聞いてくる。もちろん、
“No, no. Just for my fun!! (ちゃうちゃう。趣味だよーん)
と答える。Sagarmatha National Park のレギュレーションによれば、コマーシャルフィルムの撮影には USD 1,000 相当のネパールルピーを支払わねばならないのだから、間違っても見栄を張ってプロなどと答えてはいけない。

バザールをひやかしたり写真を撮ったりしながら 1時間半ほどで Kyangjuma の Ama Dablam View Lodge に到着。行きと同様にここでお茶を飲んでいると、さっきの二人はロッジの主人に頼んでアマダブラムをバックに記念撮影をしている。トレッキングの間、ナムチェバザールよりも上では常に見えていたアマダブラムともそろそろお別れだ。なぜだかエベレストよりも、アマダブラムの方がよっぽど親近感が沸いてしまっている。それにしても、このアマダブラムはどこから撮ってもサマになる、なかなかいい山なのだ。

ここで昼メシを食べようとしているイギリス人一行をおいて先に出発。彼らも実にのんびり歩いているのだ。いよいよナムチェバザールへの最後の山腹道に差し掛かる。今日もものすごい数のパーティとすれ違い、ケサブ君と胸をなでおろしながら進む。ケサブ君には、ナムチェバザールの手前の仏塔かそこより手前でも構わないが、とにかくエベレストの LPVP Last Possible View Point) で写真を撮りたいので止まってくれるように予め頼んである。
Ama Dablam はどこからとってもサマになるのだ

最後の最後に「Everest と一緒ならいいよ」と Lhotse が姿を見せてくれた ケサブ君が写真を撮るのに最適と思うエベレストの LPVP を選んで止まってくれる。どのポイントから写真を撮ろうかなと考えていると、後ろではすかさずケサブ君は三脚を組み立ててくれ、TRB はささっとストーンバッグ用の石を探しに行ってくれている。彼らと過ごしてかれこれ二週間弱。何も言わなくても彼らは写真を撮る手伝いをしてくれるようになった。もちろん、こちらからお願いしたことは一度もないのだが。

その場所でじっくり 45分間もかけて最後の見納めのエベレスト (Everest / Sagarmatha / Chomolangma / 8,848)、ローツェ (Lhotse / 8,516m)、アマダブラム (Ama Dablam / 6,812m)、タウォツェなどの写真を撮る。行きはタンボチェまでの行程を急いでいたため、じっくり三脚を立てて写真を撮るなどというひまもなかった。ローツェは最後の最後になって、「エベレストと一緒ならいいよ」と言って、その姿をくっきりと現してくれた。そういえば、昨日下山を開始せず、もう一日チュクン (Chhukung / 4,730m) に留まっていたならば、今朝は間違いなく朝日に燃えるローツェに出会えただろうと思うが、もうこれは後の祭り。ローツェは次の機会なのだ。

存分に写真を撮って出発すると、いつの間にか小学校低学年ぐらいの少年がすぐ後ろを歩いている。こっちは荷物を持っていて遅いので、「先に行ってもいいよ」と言ってみるが、別にそのままでいいらしい。正真正銘のエベレストの LPVP で立ち止まって写真を撮っていると、彼も立ち止まって写真を撮っている間ずっとにこにこしながらそれを見ている。こっちが歩き出すとまた後ろからちょろちょろと歩いてついてくる不思議君なのだ。どこから来たのだか分からないが、ナムチェバザールまで遊びにでも行くのだろうか。山腹道を上りきり、ナムチェバザールが見えてきたところで彼は別の道を下ったようで、姿が見えなくなった。

「狂気の電話行列」

エベレストの LPVP を出発してから 25分程で、前回宿泊を断念したナムチェバザールの Thamserku Lodge に到着。今日は泊まれる。すぐにお茶を頼んで、それを飲みながら昼メシにトマトチーズスパゲッティをオーダーする。TRB は例のチウラという米を叩いて炒ったものを、チャーの中に入れてスプーンで食べている。ちなみにここのロッジのキッチンは、ダイニングの中にあるオープンなカウンターキッチンで、調理している姿をそのまま見ることができるし、キッチン自体も非常にきれいに整理されていてとても安心できる。料理担当の青年もとても手際がよく、プロの料理人といった面持ちである。もちろん、トマトチーズスパゲッティは非常に旨かった。

昼メシを食って、12時半にケサブ君とロッジを出る。カトマンズの Himalayan Activities のオフィスに電話をするためだ。ケサブ君による下山報告 (といってもまだナムチェバザールではあるが) と、こっちの用件は、下山後のカトマンズでのホテルの予約をお願いすることと、予備日を使わなかったため残った一日分のトレッキング代金を払い戻してホテル代に当てることができるかどうかを Raghu 氏に確認するためだ。
これが正真正銘の Last Possible View Point of Everest

ナムチェバザールには例のインターネットカフェのように衛星電話を備えている店は何軒かあるが、それらはネパールの基準で言えば目ん玉が飛び出るような値段である。と言うわけで、ナムチェバザールで働く人や、トレッキングのガイドなどはカトマンズとの連絡に、ナムチェバザールの中に一本しか引かれていない Nepal Telecommunications Corp. の電話を使うのである。ナムチェバザールのかなり下の方にある Nepal Telecom の建物の二階に上がると、畳六畳分ほどの広さの待合室には電話の順番を待っている人が 10人ほどいる。その一つの壁は隣の部屋に入るドアになっていて、そのドアを開けっ放しにして下半分をテーブルでふさいだ形にして窓口にしている。中はもっと広い部屋だが、その窓口のテーブルに Telecom の係員が二人張り付いていて、テーブルの上に黒電話が一台だけ置かれている。基本的には番号を係員に告げて、彼が先方に電話をした後、ストップウォッチをスタートさせながら受話器を依頼者に渡す、という明快な方式なのだが、窓口の前には数人の人が詰め掛けていて近づくことができない状態だ。それ以外のイスで待っている人たちもいて、順番は管理されているようだが、じゃぁなんでそんなに窓口に身を乗り出してぎゅうぎゅうに詰め掛けなければならないのか。まったくの謎なのである。

しばらく待った後に、ケサブ君がなんとかそのぎゅうぎゅう詰めの中に潜り込んで、紙切れをとってくる。そこには電話番号が書き並べられており、それに、Himalayan Activities の電話番号を書き加え、再度ぎゅうぎゅう詰めに突入し無事係員に戻す。つまり、係員はそのリストの順番に電話をかけていくのである。それなのに、電話で話している人が話し終わると、そのぎゅうぎゅう詰めな人たちは一斉に自分の電話番号を叫びだし、ものすごい騒ぎとなり、さらにそこにいる全員がなぜか窓口の中に頭を突っ込もうとするため、入り口をふさいでいるテーブルがギシギシと動いてしまうといった状況になる。電話をかけている人も、必然的にそのぎゅうぎゅう詰めの中で話をしなければならず、もうこれは内緒話でウッフン、なんていうのは完璧に不可能なのである。

その場で待つこと約一時間。ようやく順番が回ってくる。まずはケサブ君が Raghu さんと手短に話をし、予定より一日早くカトマンズに戻ることを伝えた後に受話器を渡される。受話器の向こうでは明るい Raghu さんの声が聞こえる。カラパタール (Kala Pattar / 5,545m) と エベレストベースキャンプ (Everest Base Camp / E.B.C. / 5,350m) では最高の天気だったことを簡単に伝え、予備日のキャンセル分の払い戻しの件と、カトマンズのアンナプルナホテル Hotel del' Annnapurna を 4月14日までとりあえず予約確保してもらうようにお願いする。予定より一日早く帰ることによって、ネパールを出国するまでに 3日間の猶予ができたため、この 3日間をどう有意義に過ごすかについて、ペリチェ (Pheriche / 4,215m) でケサブ君とチュクン行きの検討をしたときから、ケサブ君があれこれ考えてくれている。ケサブ君は写真を撮ることを前提にポカラ (Pokhara) からサランコット (Sarangkot) に行き、そこで一泊するというプログラムを推奨してくれている。これは手軽にアンナプルナ連邦を眺めることができる魅惑のコースではあるのだが、カトマンズとポカラの移動を含めて三日間かかるため、カトマンズに戻った翌日に出発、帰国前日の夕方に戻ってくるというスケジュールになってしまう。さすがに疲労している身体にはきつい気がするし、カトマンズで何か買い物などをするゆとりも取れそうもない。まぁいずれにしてもツアーの値段と手元に残っている現金との相談になるため、その辺の話はカトマンズに戻ってから、Himalayan Activities のオフィスで Raghu さんと相談することにして電話をケサブ君に戻す。という話をしている間ずーっと、身体は後ろからものすごい力でテーブルに押し付けられているのであった...。

「至福のホットシャワー」

電話を一本かけるのに 1時間15分かかってしまった。ケサブ君とぶらぶら歩きながらロッジに戻り、ダイニングでホットシャワーをお願いする。ここのシャワーは電気温水器方式ではなくバケツ方式なので、シャワーに必要な分だけのお湯を沸かすまでに 30分ほど時間がかかるという。ケサブ君とダイニングで壁に張られた写真などを見ながら話をしているうちにいよいよ準備ができる。大きなバケツを持ってよろよろと歩いて行くロッジの男性の後について、ロッジの外の石造りのトイレとシャワーが併設されている小屋まで行く。鍵を渡され中に入るときに、「おっとそうそう」、といってロッジの男性がバケツの中のお湯の湯加減を見てみろという。完璧な温度だ。

シャワー室の中に入ると、この間ナムチェバザールで入ったシャワーもそうだったが、衣類を置けるようなところや靴を脱ぐための乾いたところが何もない、ただのコンクリートの打ちっぱなしの床の上にすのこ状の板が渡してあるだけ。仕方がないので、着替えの服は窓のサンのところに置き、脱いだ靴と靴下は、入り口のドアのすぐ手前の水がかからなそうなところに置く。頭の上では、ザバーっとお湯を天井のバケツに入れ替えている音がする。コックをひねると最初は水が出てきたが、すぐに暖かいお湯が出てきてそれはもう感動の一言だ。なんと言っても、前回ナムチェバザールでシャワーを浴びてから 10日ぶりなのだ。とは言え、バケツの中のお湯の残量がイマイチ不安なので、極力最初に浴びるお湯は少なめにして、手早く頭と身体を洗ってから最後にたっぷりお湯を浴びる。これはもう、至福のひと時なのである。

シャワーを浴びて、衣類もすべてこの日のためにザックの中に入れておいた新しいものに替え、とても幸福な気分でロッジに戻る。ケサブ君はどこかに遊びに行ったようだ。部屋に戻ってこれまで着ていた衣類、これはもう汚れ物としか呼びようがないものをビニールの袋に入れた上でスタッフバッグにしまう。さらにガムテープを貼って『汚れ物』と明記した上でザックの一番下の方にしまいこむ。これで心身ともにスッキリした。

10日間チェックしていないメールをチェックしに、インターネットカフェに向かう。前回行ったのと同じ店、前回ラリっていた兄ちゃんは顔を覚えていてくれたようで、すぐに日本語環境の使えるマシンに案内してくれる。メールと共に日本のニュースなどを読み、45分間で Rs500 払う。さすがに高いのだ。しかし、本当にインターネットの普及は驚くべき有難さだ。これがちょっと昔なら、カトマンズまで下って、さらに帰国便を待ってバンコクに飛び、日本行きの飛行機に乗って初めて一日前の新聞が読めるという状況であったはずだ。

ロッジに戻るとダイニングにケサブ君が戻ってきている。
「シャワーは浴びないの?」
と聞くと、彼は今日のロッジのシャワーは寒いので、明日ルクラ (Lukla / 2,860m) まで下ってからシャワーを浴びるのだという。もっとも彼の場合、ディンボチェ (Dingboche / 5,350m) で頭を洗ったりしているので、ここまで切羽詰った状況ではなかったのだろう。

せっかくなのでここまで無事に下ってきたお祝いにビールを二本頼んで乾杯。もちろんこっちのおごりだ。そこで、ここ三日ぐらいどうしようか迷っていた件について話し合う。ナムチェバザールの停滞日に高度順応で HOTEL Everest View に登った日、ゴラクシェプからカラパタール、そして、エベレストベースキャンプに行った三回分について、来なくてもいいはずのところで、TRB がカメラザックを背負ってくれたことに対して彼に何らかの形でお礼をしたいと考えていたからだ。基本的にはエキストラのボーナスを支払ってあげようと考えていたのだが、その具体的な額についてケサブ君の意見を聞きたかった。ケサブ君との話では、一回に対して Rs250 でいいんじゃないかということになる。合計で Rs750、つまり日本円にして 1,000円程度なのだ。そこへちょうど TRB が外からポーター仲間と一緒に戻ってくる。ケサブ君がこの件について TRB と話をすると、TRB はやや緊張した面持ちでケサブ君とあれこれ話している。ケサブ君曰く、「実は TRB がカラパタールに行ったのは今回が初めてでとても大変だったこと、カメラザックも重かったが一生懸命頑張ったのだということ、などを評価して一日辺り Rs300 にはしてくれまいか」、という内容だったようだ。もちろん、これに異論を挟むつもりはまるでなく、
「もちろん TRB がその額でハッピーなら全然構わないよ。」
といってトータル Rs900 ということでシャンシャンシャンと合意。ケサブ君は実際の支払いはルクラについてからで構わないというので、そうすることにした。

晩メシの時間が近くなってきてロッジのダイニングには結構な人数の人がいる。このロッジはきれいなこともあって外人受けするのか、ほぼ毎日満室だという。壁に掛けられたホワイトボードには、遠征隊の宿泊予約状況が書かれている。しかも、ここのロッジの女将さんの姉は、エベレストにも登頂しているネパールでも有名な登山家らしく、壁には HOTEL Everest View で国王から勲章をもらっている写真が掛けられている。そういう由緒正しいロッジだからかどうなのかはわからないが、確かにここのロッジは金回りがいいように見える。コンロも今まで見たような薪やラジウスのコンロではなくプロパンガス式のものだし、ダイニングには冷蔵庫、オイルパネルヒーターまであるし、今まで宿泊したどのロッジよりも明るい蛍光灯がつけられている。個室の電気も白色灯だ。さらに、ダイニングには衛星放送の入るテレビや日本の シャープ製のビデオデッキなども完備されている。ケサブ君が選ぶだけあって、ナムチェバザールでも 1、2を争う豪華なロッジなのである。

晩メシのカレーが出来上がってくるが、頼んでおいたはずのチキンスープが手違いでできてこない。それをキッチンの料理人に言うと、ものすごく申し訳なさそうな顔をしてすぐに作りますといってくれる。と同時に奥の方から女将さんの声が飛んでくる。
「Sorry ジャパニさーん!」

ケサブ君はダイニングでロッジの子供の相手をしながら晩メシを待っている。ここでもネパリ (ネパール人) は外国人の食事がすべて終わるまで食べられないのだ。衛星テレビではネパールの田舎での民族音楽と踊りを紹介する番組を放送している。それを見ながらケサブ君が嬉しそうにその音楽や、踊りについて、ケサブ君の出身地の村での暮らしやお祭りのことなど、色々と教えてくれる。無事にナムチェバザールまで下ってきたことで、彼も肩の荷が下りたのだろう。とても開放的な顔をしている。

ケサブ君は今日ナムチェバザールで新しい財布を買ってきたそうで、それを見せてくれる。それを見ながら、
「さっき TRB にボーナスを払うことを相談したが、もちろんケサブ君にも何がしかお礼をしてあげなきゃいけないよなぁ...。」
と考える。もちろん彼は給料をもらっているわけだし、今回のトレッキング費用の中にそれも含まれているのだが、それでも TRB とは差をつけてあげなければ。まぁ気持ちの問題なのだが。彼がいつだか、カトマンズで彼の住んでいるワンルームのアパートの家賃を教えてくれたことがある。それを覚えていたのでその額の五分の一ぐらいが妥当かなと結論付ける。もし日本で 10万円のところに住んでいたとしたら、『2万円のお小遣い』ぐらいに相当するというわけだ。試しに、ケサブ君に、
「もしボーナスあげるとしたらどれぐらい欲しい?」
と聞いてみると、彼は満面の笑みを浮かべてさっき見せてくれた財布をポケットから引っ張り出し、
「それは、好きなように決めてよ。でも、この財布、ここも、ここも、ここにもまだ何にも入ってないんだよね〜、エヘヘ。」
と財布のポケットをあちこち開けながら言う。なんだかとても純粋で可愛いなぁと思ってしまう。彼はまだ高校生に毛が生えた程度、弱冠 19歳なのだ。
「ハイハイ。考えておくよ〜。」
というところで、この話はおしまい。ようやくケサブ君たちの食事の準備ができた。

明日はいよいよルクラまで、トレッキング最終日だ。なぜか記録はないが、21時ごろに寝たはず。


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