ヒマラヤトレッキング日記
〜 カラパタール / EBC トレッキング編 〜


2004/3/31 (Wed)

晴れ、のち風、のち雪

起床(5:45) → 朝食(7:00) → Deuche (3,700m)/ Quite Gomba Lodge 発(7:25) → たて at 3,825m (7:47〜7:55) → たて at 3,900m のチョルテン(8:13〜8:23) → たて at Pangboche (3,985m) / Ama Dablam Lodge and Restaurant(8:38〜9:00) → たて at 4,000m (9:28〜9:35) → Shomare (4,040m) / Moon Light Restaurant & Bar for 昼食(9:45〜11:15) → たて at Tsuro (4,250m) / Himalayan Tea Shop Restaurant(11:50〜12:00)→ たて at 4,250m (12:10〜12:15) → Dingboche (4,350m) / Mountain Paradise Lodge 着(12:50) → 夕食(19:00) → 就寝(20:30)

(Deuche 〜 Dingboche 歩程: 5時間25分

「4,000m の森林限界」

朝日に淡く照らされる Khumbila 5時45分に起床。パッキングをして昨日に引き続きダイアモックスを飲み 2階のダイニングに出て行くと、昨日の夕方から降っていた雪はすぐに止んだようで積雪は見られない。クンビラ (Khumbila / 5,761m) に淡い朝日が当たっているので、入り口の横のドミトリー (共同の寝室 / Dormitory) を覗いてケサブ君と TRB に挨拶してから、写真に撮りに外に出て行く。ここのロッジでは、ガイドもポーターもいわゆる個室ではなく、キッチンの隣のドミトリーに寝ることになっていたようだ。上の方では基本的にロッジが少なくなってくるため個室がツーリストでいっぱいになってしまうこともあり、また個室の値段も高くなってくるため、ケサブ君も TRB もドミトリーやダイニングで泊まることが多くなってくる。

朝食に目玉焼きとバタートーストを 2枚頼む。ダイニングで待っていると、ロッジの主人がもう一軒のきれいなロッジの方からパンを持って走ってくるのが見える。在庫がなくて隣のロッジからもらってきたのだ。出てきたトーストは食べようとするそばからボロボロと崩れてしまうような代物。しかもバターはないそうだ。目玉焼きを上に乗っけて食べる。

古い吊橋の上に鉄製の橋が架かる オーストラリア人 3人組と咳をしていたドイツ人が先に出発。今日はパンボチェ (Pangboche / 3,985m) までの 2時間程の行程だと言っていたアメリカ人カップルはまだ起きてこない。7時25分に出発。昨日写真を撮ったメンダンの脇を通り、20分程歩くと支流のイムジャコーラ川 (Imja Khola River) の右岸に渡る吊橋に出る。古い吊橋の上に新しい鉄製の吊橋が作られているが、古いほうもいまだに使われているようだ。その橋を渡るとすぐに急な上り坂が始まる。20分強歩いて 3,825m 付近で一回目のたて。そこからさらに 20分程歩いた 3,900m 付近のチョルテンの脇で二回目のたて。と、今日も登りは超スローペースで進む。そこを出て、15分程でパンボチェに到着。またもや現れた Ama Dablam Lodge という名前のロッジで休憩。2階のダイニングでチャーを飲んでいると、なぜかラウンジの中には日の丸の旗が。よく見るとなにやら決意表明のような日本語の文章が書かれている。色々な気持ちを抱いてヒマラヤに来る人がいるのだな、と思う。 チョルテンの向こうには Kongde Ri がうっすら

Pangboche のロッジのダイニングなぜか日の丸が飾られている 9時に Ama Dablam Lodge を出発。そして 30分弱歩いたところでたて。高度計を見ると、遂に 4,000m を突破した。この辺りまで来て、ようやく森林限界なのだ。日本の北アルプスでいう 2,500〜2,600m 付近の雰囲気だ。ヒマラヤは岩と氷のイメージだが、やはりネパールは赤道に近い位置にあるということを改めて実感する。昨日に引き続き、アーモンドチョコレートを食べながら休憩。相変わらずケサブ君は嬉しそうにしてくれるので、こっちも何だか嬉しくなってしまう。出発してすぐ、反対側から 50歳ぐらいの日本人が下ってくるので挨拶をすると、彼は釧路から来ているとのこと。
「カラパタール (Kala Pattar / 5,545m) は素晴らしかったですよー。高山病も何とかクリアできてね。頑張って行ってきてください!!」
と激励を受ける。その後、これらの会話の内容に基づいて、「どうも」という言葉がいかに日本語の中でオールラウンドな用途に使われているか、ということについてケサブ君にレクチャーしながら進んでいく。

9時45分、ショマレ (Shomare / 4,040m) に到着。Moon Light Restaurant & Bar という茶屋で昼メシとなる。「Mixed Fried Noodles」と「Black Tea」を注文。天気がいいので外のテーブルで食べる。例のグリーンのチリソース (Green Chilly Source / Butterfly Fruit Canning Company, Nepal) をつけて食べるとやたら旨い。昼食を終え出発の準備が整うが、TRB が戻ってこない。彼はより安い、近くのローカルバッティで食事をしているようなのだが、ケサブ君も彼がどこにいるのか見当がつかないようだ。しばらく待つが戻ってこないので痺れを切らして、ケサブ君が探しに行く。結局、30分程待つことになったがこの間に二つのパーティに抜かれてしまう。幸い今日の目的地であるディンボチェ (Dingboche / 4,350m) にはロッジが沢山あるので、昨日のようなことにはならないのだが。

「すごいアメリカ人なのだ」

ようやく TRB も戻ってきて出発。ショマレから40分弱歩いたところのツロ (Tsuro / 4,250m) というところで休憩。またダイアモックスの影響で手足の先がジンジンしびれている。ここから、一旦、イムジャコーラ川のレベル (4,135m) まで下って登り返すことになる。川のレベルからちょうどツロと同じ 4,250m まで登り返すのに 10分。そこで一回たて。ケサブ君は実にスローペースで登ってくれる。既に 4,000m を超えているのでいつ高山病の症状が現れてもおかしくはないのだ。これぐらいのペースで登るのがちょうど良いのかもしれない。5分ほど休憩してすぐに出発。

その後、さっき昼メシのあと TRB を待っている時に抜かれた二つのパーティを抜き返し、30分程でディンボチェの入り口に到着。山の中腹にチョルテンが二つ見える。昨日までのケサブ君のロッジ選びから、ディンボチェの村の一番てっぺんのあたりにあるきれいな作りのロッジがそうだろうと目星をつける。案の定、ケサブ君はそのロッジをめがけてひたすら村の道を登っていく。予想は的中し、Mountain Paradise Lodge and Restaurant という美しい二階建てのロッジに入る。チャーを飲んでから案内された部屋は窓からはチュクン (Chhukung / 4,730m) 方面の展望が開け、今日は既に雲に隠れてしまっているがローツェ (Lhotse / 8,516m) が見えるはず、という実に景色の良い部屋なのだ。
Dingboche が見えてきた

既に外はすごい風で、ローツェ方面はすっかり雲に隠れてしまっているので残念ながら写真は取れず、ぽかぽかしたサンルームで暖まる。ここのロッジのみならず、このトレッキングルート上のロッジの多くは、サンルームや天窓などをふんだんに利用して、昼間の暖かさと明るさを確保している。そうすることによって、ダイニングでの薪の消費量を最低限に抑えているのである。サンルームでは具合の悪そうな東洋系のトレッカーらしき人が一人コーラを飲んでいる。その向こうでロッジの娘が女将さんの頭に櫛をかけてノミか虱を取っている。ケサブ君はロッジの人に桶を借りて近くの水場に洗濯に行ったようだ。そういえば、ナムチェバザール (Namche Bazar) を出てから顔を洗っていない。ロッジの人に頼んで、洗面器にお湯を少しもらってそれに水を加えてぬるま湯を作り、ロッジの外で顔と手を洗う。気温が低く風が強いので外で手や顔を洗うとあっという間に手先が冷たくなってしまう。そうこうしている間に、雪がちらちらと舞ってくる。

16時頃になるとストーブがつくのでダイニングに行って地図などを眺めていると、ケサブ君がお皿に山盛りの茹でたジャガイモを持ってきてくれる。手で皮をむき、赤唐辛子で作った自家製のチリソースをつけて食べるとこれがめちゃくちゃ旨い。皮を剥くのにてこずっていると、手馴れた手つきで皮を剥き終わったケサブ君が自分の分をくれる。本当につくづく優しい青年なのだ。腹いっぱいになったころ、ようやくストーブに火が入った。早速イスをストーブの脇に寄せて暖まっていると、さっきサンルームで見かけた東洋系の人がやってきて輪に加わる。彼もまた咳をしていて具合が悪そうなのだが、話を聞いてみると彼はアメリカの遠征隊の一員で、エベレストベースキャンプ (EBC / 5,350m) まで一旦入ったものの、風邪を引いたために、ここ、ディンボチェまで下ってきたと言う。いろいろと高度順応などに関する話など聞いているうちに、彼はアフリカのキリマンジャロ (Kilimanjaro / 5,894m) を皮切りに、北米のレーニア (Rainnier / 4,392m) 、アラスカのマッキンリー (Mackinley / Denali / 6,194m)、南米のアコンカグア (Aconcagua / 6,962m)、さらにすぐそこのアマダブラム (Ama Dablam /6,812m) などの山には既に登頂し、今回エベレスト (Everest / Sagarmatha / Chomolangma / 8,848m) の登頂を目指しているのだという、ものすごい人だということがわかってきた。
「日本の富士山は残念ながらまだ登ってないんだけどね。」
彼はゴホゴホと咳をしながらそう言った。エベレスト登頂のためには、これから先 2ヶ月間もベースキャンプで過ごさなければならないのだそうだ。

外に出てみると、ものすごい雪。ケサブ君の干した洗濯物はカチンカチンに凍っていて、外に見に行った彼が叫び声をあげている。明日は高度順応のため、一日ここに停滞し、朝早くチュクンまで登って往復ことになっているが、この雪で大丈夫なのだろうか、とちょっと不安になる。晩メシはオニオンスープとカレーライス。さっき蒸かしたジャガイモを食べたので、結構お腹が一杯だがロッジの娘が無理やりおかわりをくれるので頑張って食べる。

今日も風邪っぴき、しかも本格的な風邪っぴきと話をしてしまったので、イソジンで念入りにうがいをして歯磨きをする。ミネラルウォーターを節約するためにコップ一杯の水にイソジンを入れて、歯磨きと同時にうがいをするというのにももうずいぶん慣れた。

明日はできるだけ早くチュクンに上がって写真を撮るため、6時朝食、6時半出発の予定なので、先に朝食をオーダーして、20時半に就寝。


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