ヒマラヤトレッキング日記
〜 カトマンズ編 II 〜


2004/4/14 (Wed)

起床(6:50) → 朝食(7:30) → Hotel del'Annapurna 発(9:40) → Himalayan Activities 着(10:00) → 買い物(〜11:00) → Himalayan Activities 発(11:10) → KATHMANDU Tribhuvan 国際空港着(11:40) → 出国審査完了(12:40) → TAKE OFF(14:00) → BANGKOK Don Muang 国際空港着(18:30) → Comfort Suite Airport Hotel 着(19:30) → 夕食(20:30)

「マーダルを買ったぞ」

6時50分に起きる。昨日よりはいいが相変わらず鼻は出る。これはひょっとして鼻風邪ではなくて、カトマンズの排気ガスのアレルギーかもしれない。ともあれシャワーを浴びて、7時半に朝メシを食べる。

今日は 9時半にケサブ君が迎えに来てくれることになっているので 9時15分ぐらいにチェックアウトに向かう。昼メシを一緒に食べることになっているのだ。ところが 9時半を過ぎてもケサブ君は現れず、もしかして待ち合わせは「Himalayan Activities のオフィスで」という意味だったのだろうかと不安になり始めた頃に、なんと Raghu さんが現れる。たまたまホテルに用があったためにケサブ君の代わりに迎えに来てくれたのだ。ホテルでの用を済ませた Raghu さんとタクシーに乗りオフィスへ向かう。

タクシーの中はいつものようにラジオからネパール音楽が聞こえてくる。トレッキングで泊まったロッジのラジオやテレビ、移動中のタクシーの中など、ネパールにいる間中いたるところで耳にすることができたネパール音楽は、これ以上無いほどにネパールの風土にマッチしていて、是非これらの音楽の入った CD を買いたいと思っている。同時にネパール音楽で使う主要な楽器である『マーダル』という太鼓も是非日本に持って帰りたい。しかしながら、CD はともかく、マーダルはどう考えても今もっている荷物の中には入らないし、よしんば入ったとしてもまた重量オーバーになってしまうのは確実だ。今回は諦めるというオプションもあるが、次回はいつ来られるかわからないし、自分用のお土産としてやはり何とかして買って帰りたいので、Raghu さんに事情を話し、後から別送してもらうことが可能かどうかタクシーの中で聞いてみると快く承諾してくれる。しかも、
「料金は調べてみないとわからないので後から送金してくれればいいですよ。」
と、誠にもって有難いお言葉を頂いてしまう。

この喧騒とも今日でお別れ オフィスに着くとケサブ君は外出しているようなので、とにかく CD とマーダルを先に買いに行くことにする。昨日の晩一緒にのみに行った失恋君に会って、マーダルを作っている工房に連れて行ってもらうのだ。日本語の堪能な男性の方のお店に行くが彼は店の中にはいない。「困ったなぁ...」と思いながら店の中にいる別の男性に彼の行方を訪ねていたまさにその時、偶然にも彼と O 氏が店に入ってくる。二人は失恋君の店がどこなのかを知っているので非常に有難い。
「そういうことなら案内してあげよう」
という O 氏と二人で失恋君の店に向かう。道中、彼から読み終わった文庫本を二冊貸してもらう。今日会えるかもしれないからとわざわざもって歩いていてくれたとのこと。そうして歩いていると、これまた偶然にも反対側から失恋君がやってきた。
「そういうわけなので、マーダルの工房に連れて行ってくれないか?」
と尋ねると、快くオーケーしてくれる。

彼の後ろについて人とクルマの行きかうタメル (Tamel) を歩く。この喧騒とも今日でお別れかと思うとちょっと寂しい気もしてくる。マーダルの工房は通りから袋小路を入った一番奥にあった。薄暗い店内の壁からは大小のマーダル、太鼓の胴や皮、皮ひもなどの材料がところ狭しとぶら下げられている。マーダルにこんなに色々な大きさがあるとは知らなかった。どれを買ったものか迷っていると、
「叩いてみて一番気に入った音のものを買えばいいよ。」
と、そこにいたマーダル職人の男性が壁からいくつか取って手渡してくれる。と言われても正式な叩き方もわからないし、適当にパコパコと叩いてみたりしていると、失恋君が叩き方を教えてくれる。基本的にはいわゆる体育座りのように座って、膝のところに皮ひもをかけて叩くか、または、皮ひもを首にかけて首から提げて叩く、のどちらかだそうだ。彼が叩くと太鼓はトンカンといい音を立てる。ネパールではマーダルは日常の生活に必需品なので、誰でも叩き方を知っているのだ。

結局、中くらいの大きさのもののなかで、音が気に入ったものを選んで値段を聞いてみると Rs550 だという。タメルの土産物屋で聞いた値段よりも Rs200 も安い。というわけで迷わずそれを購入。失恋君に感謝なのだ。でも、きっと本当はもっと安いに違いないけど。
工房の中はマーダルがいっぱい

引き続きすぐ隣の CD 屋に入ってネパール音楽の CD を探してもらう。これもすぐに見つかったのだが、おつりがないと言って店主は友達の店に両替に行ってしまった。その間店は空っぽになってしまうのだが、そんなことはあまり気にしないようだ。やっぱりネパールは大らかな国なのだ。5分程待たされたが、無事 CD も購入することができた。これで日本に帰ってもネパール音楽を再現することができる。

ケサブ君と昼メシの約束もしていたが、なんだかんだ言ってもう既に 10時45分を回っている。飛行機はカトマンズ 13時40分発なので、11時過ぎには Himalayan Activities のオフィスを出たほうがよいと Raghu さんには言われている。早くオフィスに戻らなければと気は焦るが、そうは問屋がおろさないのだ。失恋君にこれだけ買い物を手伝ってもらっているのに、彼の店に行ってあげないというのはあまりにもひどすぎる。昨日、「太鼓が欲しい」という話をしていたときも、彼は控えめに
「カメンはいりませんかぁ〜?」
とたどたどしい日本語で語っていたしなぁ...。などと、思うそばから、彼もオフィスの方向ではなくて彼の店の方にどんどん歩き出している。
「まぁ、そりゃそうだろうさね。」
と思って「急いでるからね〜」と声をかけつつ、彼の店まで行ってあげることにする。

彼の店は昨日飲みに行った店のすぐ裏、タメルの中心に近いかなり良いところに店を構えている。若いのに大したものだ。中に入ると壁一面にお面が掛けられている。そう。感覚的には「仮面」というよりは「お面」なのだが、その違いって一体どこにあるのだろうか、などと考えるような時間的ゆとりはあまり無く、別送品の荷物が大きくなると高くなりそうなので、一番小さなものから気に入った形のものを選んで値段を聞いてみると、Rs225 とのこと。まぁ、色々とお世話になったけど、それとこれとは話が別だろうということで、一応値切ってみることにして、
Rs200 ではどぉ?」
と聞いてみると、あっさり、
「うーん、まそれでいいよ」
とのお返事。
「あー、もっと値切ればよかった。」
とも思うが、まぁこれ以上は礼儀に反するのでやめておく。

彼の名前、メールアドレス、を手帳に書いてもらい、こっちも店の帳面に名前とアドレスを書き残し、店を出る。ケサブ君との昼メシの約束を果たすことはほぼ無理だとは思うが、とにかく走ってオフィスの方向に向かっていると、反対側からケサブ君が声を掛けてくる。あまりに帰りが遅いので、どこか怪しい店で捕まっているのじゃないだろうかと探しに来てくれたのだ。ケサブ君に「昼メシに行けなくて申し訳ない」と詫びつつオフィスに戻り、Raghu さんに買ってきたマーダルと仮面を渡し、別送してくれるようにお願いする。そうしている間にもケサブ君はタクシーを呼びに行ってくれる。ケサブ君がタクシーを連れて戻ってくるのとほぼ同時に日本語担当のマヤさんがオフィスに飛び込んでくる。忙しい中わざわざ見送りに来てくれたマヤさんにお礼を言っていると、オフィスにいたスタッフはみんなで荷物をタクシーに積んでくれている。
「しかし、こうしてお別れのときに関係者が皆集まってくれるなんて、本当に暖かいトレッキング会社だなぁ...。」
と考えながら外に出ようとすると、Raghu さんとケサブ君がネパール式にそれぞれ首にシルクの布を掛けてくれてて、
「これはネパール式の挨拶です。でも、お別れの挨拶というわけではなくて、幸運をお祈りして『是非また会いましょうね』という意味なんですよ。」
と Raghu さんが説明してくれる。後日調べて、このシルクの布はカタ (Kata) というもので、これを首に掛けてあげるのはチベット系の民族の習慣のようだ。

ようやく関係者が全員そろったのでタクシーを待たせたまま、最後にオフィスの前で記念撮影。隣の店の人がわざわざ出てきてシャッターを押してくれる。最後の最後までネパールの人たちの心からのもてなしを受け、いたく感動しながらも慌しくタクシーに乗り込み、全員に見送られてオフィスを後にする。値段の交渉は既に Ragh 氏がしてくれていた。最後まで抜け目の無いアレンジメントなのだ。

「ネパールを出国」

タクシーは一路空港へ向かう。
「この埃っぽい街とも今日でお別れだなぁ...。」
と感慨にふけりながら財布を覗くと、
「げ、ルピーが足りない...」
昨日の夜、両替をしたときにマーダルの事は念頭にあったが、CD を考慮していなかった。いまさら、空港で両替して払うと言うのもめちゃくちゃ面倒なので、タクシーの運ちゃんに事情を話し、足りない分を US ドルで支払うことで同意してもらう。レートはいくらだと彼が聞くので、USD1.00 が大体 Rs76 ぐらいだろうと伝えると、彼は特に疑う様子も無い。持っているルピーに US ドルを USD1.00 つけただけでも、Raghu さんの交渉してくれた額を上回ってしまうのだが、彼には手間を取らせてしまうし、ネパールルピーを取っておいても仕方が無いので、ちょっと多めに支払ってルピーをすべて消化する。

11時40分、きっかり出発の 2時間前に空港に到着。カートに荷物を満載して長蛇の列を成しているタイ航空のカウンター前の列の一番後ろにつくと、後ろにからやってきた欧米系の初老の女性が、
「あなた、Airport Tax のチケット買ってきた? 私達、カウンターの一番前まで行ったのに、そこでチケットが無くってまたやり直しだわよ。うちの主人がほら、今あそこで買ってるでしょ。」
と話し掛けてくる。
「え? それなら私の前に並んでもらってもいいですよ。」
と言ってみるが、彼女はその申し出を丁重に断り、
「あなたももしまだ買っていないんだったら、荷物を見ていてあげるから買ってきたら? 」
と親切なお言葉。もちろん、お願いしてすぐにチケットを買いに行く。

空港税は Rs1,100。そんな大量のルピーを持っているわけも無いので US ドルで支払うが、US ドルでは USD17.00 とめちゃくちゃレートが悪い。とは言え、今や手持ちのルピーは無いのだからドルで払うしかないのだ。チケットを買ってすぐに列に戻る。もちろん荷物は無事。さっきの女性がちゃんと見てくれていた。

延々待たされてようやくカウンターにたどり着く。国際線だと言うのにそこにはトレッキング初日に乗った国内線のカウンターと同じ大きな針式の秤。そしてぬぁんとまた重量オーバー。
「どう考えてもバンコクから来たときよりは荷物が減っているのに。精度がどうもなぁ...。」
と思うが、抵抗しても仕方が無いので三脚とストックを機内持ち込みに変更。ストックはもともと三脚のバッグに入れてあるので、さほど面倒でもない。次の関門は X 線検査だ。撮影済みフィルムを感光されてしまってはたまらない。が、あっさりフィルムは免除。さらにハンドチェックもなしでラッキー。

搭乗ゲート前の待合室に入ると、そこにはこれまた国内線と同じく、便名や出発時間、搭乗ステータスを示すような掲示板は何ひとつ無い。これまであちこちの国際空港に行ったが、国際線に何も表示が無いというのはネパールが初めてだ。搭乗ゲートも一つしかないから表示が必要ないということなのだろうか。そこで待っている人はすべてバンコクに向かう同じ飛行機に乗る人なのだろうとある程度の察しはつくが、もちろん確信も無い。出発予定時刻の 13時40分が近くなっても一向にゲートを開ける様子もないし、アナウンスも何も無い。おまけに出発予定時刻を過ぎても何のアナウンスも無い。しかし、不思議なことにゲート前には自然に人々が並び始め、何のアナウンスも無くいつの間にかあけられたゲートに人々が吸い込まれていく。不安を残したまま列に並び、それでも念のためゲートで便名を尋ねると、
「TG315!!」
紛れも無く目指すバンコク行きの飛行機であった。しかし、間違いが起こらないのが不思議だ。

ボディチェックは男女別 ゲートを出て飛行機まで歩いて行くと、タラップの手前には手荷物とボディチェックのための長蛇の列。男女別ラインで、女性のラインには一応目隠し用のボックスが用意されている。三脚のバッグにストックを入れているのでちょっとだけ緊張する。ストックが武器だとみなされて置いて行かされたのではたまらないからだ。しかしこれも何とかセーフ。

飛行機に一歩足を踏み入れると礼儀正しいタイ人の客室乗務員たちが手を合わせてお辞儀をしてくれて、そこはもうタイそのもの。長いようで短かったネパールの旅はこの瞬間に終わりを告げた。

「再びバンコクへ」

座席に着くと隣には若い日本人のカップル。飛行機の中では前日付けの日本の新聞ももらえるので、これはもう急激に興ざめしていくしかないのだ。しかも席はかなり後ろの方で、機内食はチキン系を頼んだが結局カレーになってしまった。でも、このカレーは旨かったのでそれはそれでよし。残りの時間はさっき O 氏が貸してくれた本を読みながらバンコクに向かう。

バンコクに着陸したのは 18時半。並んでいた列だけがなぜか入国審査にやたらと時間がかかり、結局、同じ便でバンコクに着いた人たちの中で一番最後になってしまった。ここから先は、前回の失敗は決して繰り返すまいと、税関も最初からグリーンの方に並び、タクシーもだまされること無く公共タクシーのカウンターに一直線に向かう。タクシーに乗ると、メーターを使うことを最初に確認し、空港からすぐ近くの Comfort Suite Airport Hotelへはメーターで 43B で到着。行きの 6分の1 の値段だ。行きのときの記憶が甦ってムカムカしつつも、今回はカンペキだなと思いクルマを降りる。細かいのが無いので 100B 渡してお釣をもらう。ところが後で数えたら、このおつりがなんと 12B しかなかったのだ。またやられちまった。やっぱり基本的にバンコクの人は信用できんのだな。

部屋に戻るともうヘトヘトで、しかも、さっきのつり銭詐欺で精神的にもノックアウト状態。大した額ではないが、負けは負けなのである。これから街に出て晩メシを食べるだけのパワーなど残っているはずも無く途方にくれていると、ルームサービスのメニューが目に入る。
「そうだ、その手があったのだ!! タクシー代を払って嫌な思いをして街に行って高いメシを周りを気にして一人で食べるよりも、安いし全然楽な方法がここにあったのだ。」
と力強く頷きながらすぐさまメニューを開き、グリーンカレー、トムヤムクン、スチームドライスを電話で注文。締めて 269B。それに部屋の冷蔵庫にあるカキンカキンに冷えた Singha Draft Beer を 2缶。これでもう腹いっぱい。しかも、ルームサービスとは言え味はしっかり現地の味で大満足なのだ。

疲れていたのと喉が渇いていたのとでビールのアルコールがあっという間に回り、食べ終わって食器を部屋の外に出すやいなやすぐに寝てしまった。

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