雪渓とお花畑と灼熱地獄の記録
(白馬岳 - 朝日岳: 2000/8/3 - 2000/8/7)


2000/8/6: 蓮華温泉 〜 自宅

蓮華温泉発(16:00)→ 平岩駅着(17:05)/ 平岩駅発(18:00)→ 白馬駅着(18:59)→ 猿倉駐車場着(19:30)/ 猿倉駐車場発(19:40)→ 自宅(八王子市)着(24:00)

14時25分、小屋に入ってずぶ濡れの雨具を脱ぎバスの時刻表を見ると....14時20分。なんとたった今出て行ってしまったばかりじゃないの。そういえば、林道の小屋の直前の坂道を登っているときに、何人か小屋から走り出て行くのが見えていた。でも、そこでダッシュできたかと言うと、もちろんそれは不可能だったろう。次のバスは 16時まで出ないので、これで心置きなく温泉に入れるというものだ。金を払って風呂の場所を聞き、足を引きずって浴場への階段を下りていく。

浴場は大きな窓があって明るくて気持ちが良かった。洗い場は混んでいて順番待ちだったが湯船は広く快適で、疲労も吹っ飛び十分に身体をほぐすことができた。脱衣所に出て行くと、床の上で若者が一人へたり込んでいる。動けないほどにのぼせてしまっていたのか、それとも単に放心してしまっていたのか分からなかったが、それにしてもロッカーの目の前のとにかく邪魔っけなところに座り込んでいて参った。何とか着替えを出して服を着るが、せっかく風呂に入ってすっきりしたのに、今回ズボンの替えは持ってきていなかったので、結局、雨と泥と汗でドロドロなったズボンをまたはく破目になった。列車で山に行っていた頃はどんなに重くても必ず着替えを一式持って歩いていたが、クルマで行くようになってからはズボンは嵩張るのでクルマに置いて行くことが多くなった。今回はここからクルマの置いてある猿倉までまだまだ遠いし、大糸線にも乗らなければならないので、やはり予備のズボンは考慮すべきだった。連日の夕立も十分予想されていたことだ。

上に上がってビールを飲んで寛いでいると、さっき兵馬の平までの急登の途中で心臓を突き破って死に果てていた時に、追い抜かされて先に行った若い単独行の女性が風呂上りのコーヒーを飲んでいた。風呂上りのその姿はそこはかとなく色っぽくもあり、坂の途中で二言三言コトバを交わしていたので、同じ単独行同士、風呂上りの話でもしようかとチラッと考えたが、「風呂上りの味と香りのコーヒー...」といったあまりにシブイ感じでコーヒーを飲みつつ何か考え事をしているようだったので、思わずためらってしまい、結局、風呂上り談義は計画だけで終った。

その時ザーっという音と共に、集中豪雨なみの雨が降ってきた。ビールを飲んで騒いでいた 10人ぐらいのパーティーがギョッとしたように外を見て、どやどやと出て行った。チャーターのバスを待たせてビールを飲んでいたが、雨量で道が通行止めになるのを恐れて慌てて帰っていったのだ。オレが風呂に入る前からそこにいたから随分待たせていたのかも知れない。

こっちのバスも本当に来るんだろうかと不安になって来た頃、平岩駅行きのバスが到着したという情報が小屋の食堂内に流れてきたので、ゴアの上着を羽織ってバス停までダッシュ。行ってみるとバス停は屋根のある正しいバス停だったのでそこに飛び込む。この 30秒ぐらいで、またズボンはずぶ濡れになった。バスは確かに来ていたがまだ扉を閉じたままだったので、屋根がなかったらちょっと辛いことになっていたような気もする。

10分後、無事改札を済ませバスに乗り込み出発を待っていると、発車直前に全身ずぶ濡れのオッサンと爺さんの二人組みが乗ってきた。オレはバスの一番後ろに座っていたが、動いているバスの中、すぐ脇で爺さんが全身素っ裸になって着替えるのを見て、その人目を全く気にしない堂々とした脱ぎっぷりに、長年生きてきた男の年輪のようなものを感じてしまった。バスの後ろのステップのところで服を絞るとザァザァと水が流れた。一方、ザックから出てきた風呂敷包みの着替えの方もやはり完全にびしょびしょで、今脱いだものよりましな所といえば、絞って水が出ないところぐらいだった。爺さんが風邪を引かなければ良いが、というようなことを考えながら、平岩駅までの道のり約 1時間を過ごす。

雨は蓮華温泉を出て間もなく上がっていた。炎天下の平岩駅でバスを降りたのはほんの数人。残りの人たちは同じバスで糸魚川まで向かうのだ。平岩駅で調べると次の南小谷行きの列車はなんと 1時間待ちの 18時発だという。白馬に着くのは 19時になってしまう。大ショック。でも、もう一組の別のパーティは、今日中には東京に着けないことを知って、もっとショックを受けていた。駅員とあれこれ大騒ぎをしていたが、結局、いつの間にか反対向きの列車に乗っていってしまったようだった。糸魚川経由で帰る方法が見つかったのかもしれない。こっちはもう開き直って真夏の平岩駅の正面の階段を独占し、そこにお店を広げてずぶ濡れになった装備を片っ端から乾かしつつ、登山本部と自宅に下山報告を入れ、駅前にある唯一の店でアイスモナカを買った。

平岩駅から白馬駅までは乗り換えを含めて約 1時間。
「列車で 1時間なんて 3日間で随分遠くまで歩いたのだなぁ...。」
と悦に入って景色を眺めていたが、実は平岩駅は蓮華温泉よりもはるかに日本海に近い位置にあったのだということが、後で地図を見て判明した。大糸線沿いを流れる姫川は、アルプス上での夕立の水を目一杯集めて、白馬につくまでの全区間でものすごい濁流となって荒れ狂っていた。どうやら北アルプス全般的にカミナリ&集中豪雨の一日だったようだ。

19時に白馬駅に到着。さすがにもう暗くなってきている。タクシー乗り場で一台のタクシーをつかまえ、
「猿倉駐車場までお願いします。」 と言うと、
「おう。お疲れさん!! 何処に降りたの? 蓮華だな。」
とちゃんと分かってくれている。聞くと夕立は山の上だけではなく、白馬村も昼からものすごいカミナリだったそうで、今年は連日こんな感じだそうだ。行きはタクシーに乗らなかったからこういう情報が取れなかった。この運ちゃんは自分でも山登りをする人で、蓮華温泉から日帰りで白馬を往復する方法など、貴重な情報も伝授してくれた。また、一時期東京で絵の勉強をしていたこともあるというこの運ちゃんは、白馬村周辺のタクシー事情について都市部とは全く異なる厳しい現実を語っていた。最近のバス ツアーやマイカーによる旅行が、確実にこういうところのタクシー需要に影響しているのだ、というのは考えてみればもっともな話だが、実際に色々な話を聞くと切実に伝わってくる。話をしながらあっという間に猿倉駐車場に到着。

クルマは無事もと置いた場所にあった。ズボンをクルマに置いておいた G パンにはき替え、ようやくすっきりして 19時 40分に出発。途中、あまりに腹が減っていたのでマクドナルドのドライブ スルーに寄ったが、それ以外は何処にも止まらず一路豊科へ向かう。そういえば、今日は 2時半起きで、途中ろくなものを食べていなかったから腹が減って当然だったのだ。豊科までは例のバイパスを快調に飛ばし、そこから高速に乗り甲府までは渋滞もなく順調についた。が、今日、8月 6日は日曜日で、中央高速は例によって中野トンネルを先頭に勝沼までの大渋滞。結局、八王子の自宅に帰り着いたのは 24時をちょうどまわった頃だった。


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