雪渓とお花畑と灼熱地獄の記録
(白馬岳 - 朝日岳: 2000/8/3 - 2000/8/7)


2000/8/6: 朝日小屋 〜 蓮華温泉

起床(2:30)→ 朝日小屋テント場発(3:55)→ 朝日岳山頂手前雪渓下着(4:40)/ 雪渓下発(4:45)→ 朝日岳山頂 (2,418.3M) 着(5:05)/ 山頂発(5:20)→ 白高池下水場タテ(6:15)/ 発(6:25)→ 五輪高原上部タテ(7:25)/ 発(7:40)→ 花園三角点 (1,753.6M)着(8:15)/ 発(8:30) → 白高地沢(1,380M 付近)着(9:50)/ 発(10:30)→ 瀬戸川手前水場タテ(11:25)/ 発(11:35)→ 瀬戸川橋(1,100M 付近)着(11:45)/ 発(12:00)→ 1,300M 付近たて(12:25)/ 発(12:40)→ 兵場の平分岐点着(13:05)/ 発(13:15)→ 自然歩道分岐(1,450M 付近)着(13:55)/ 発(14:05)→ 蓮華温泉着(14:25)
(歩程: 10:30)

2時半に起床。空には星が出ていて今日も晴天だ。メシを食って出発の準備をしていると、もうチラチラとヘッドライトが朝日岳の稜線を上がっていくのが見える。また出遅れた。結局、出発は4時前になってしまったが、あたりはまだ暗く夏山独特な静寂の中を朝日岳の稜線に取り付く。ルートは急登で樹林帯の中、つづら折の道をヘッドライトを頼りに登っていく。ふと後ろを振り返ると富山の町の明かりが美しかった。やや明るくなってきたところでちょっとゆるい登りになってきたのでそろそろ頂上かと思ったが、そこには結構水量の多い沢が流れていた。頂上はまだまだのようだ。コースタイム上では 1時間だが、朝イチの一本目で 1時間を登り通すのはかなりキツイ。45分が経過した頃に出会った途中の大きな雪渓の下で 5分だけ立ったまま休憩を取る。

後ろから小屋泊の家族 3人連れがついて来ていたが、ここで先に行ってもらう。トップを行くオヤジは、今年このルートは 2度目だと言う。
「前回あんまり花が綺麗だったので家族を連れてやってきたのだ。最後の登り返しは辛いぞぅ。前回オレ様はそれでも 11時20分のバスに間に合ったのだ。」 などと随分偉そうに話している。
「あれ、どっかで見た顔だなぁ...。」
と思ったら、昨日の夕方、立ち入り禁止ラインを超えて花の写真をとっていたバカヤロウなのであった。一言いやみを言ってやろうかとも思ったが、体力を消耗したくないのでヤメた。

朝日岳山頂 そこから約 20分で山頂に到着。一面ガスに覆われていて結構風が強い。ザックを下ろして水を飲んでいると、ガスがさーっと引いて太陽がうっすら見えてきた。 朝日岳で見る朝日はとても神々しく、また朝日岳という名の山の頂上で朝日を見ているというのがなんだか嬉しかった。風は相変わらず強く結構寒いので、早々に下ることにした。頂上から 5分も下るともうガスってはいない明るい日差しの中で風もなくポカポカとした山道だ。この辺で白馬岳の稜線とは別れを告げ、犬が岳手前の鞍部へと下ってゆく。頂上から約 30分で栂海新道の分岐点に到着。栂海新道への道標は鉄板を打ち抜いて点文字のようにかかれていた。道はちょっと細くなっていて、通る人の少ない、一般人によって保全されている山道という感じが出ていてなかなか良かった。

もちろん栂海新道には入らず、犬が岳の稜線を大糸線側に巻いて五輪尾根の方へと向かう。100M 程前の小さな雪渓を初老の夫婦がトラバースしている。安全に渡りきったのを見てこっちも先へ進む。ペア ストックなので大ザックでもバランスを取りやすく、非常に気楽に進める。

その結構大きな雪渓をトラバースし、さらに下りきったところの水場で一回タテを入れる。そこから道は沢沿いに下って行き、所々に木道が施設されている。ところが、この木道が朝露に濡れている上に、下り坂に設置されているため非常に滑りやすい。ハシゴのように横棒が入れてあるのだが、気をつけていないとすぐに滑ってしまう。歩きながらちょっと写真を撮ろうとしたのがいけなかった。微妙にバランスがずれてスリップしたところで、大ザックに振られて一気にひっくり返ってしまった。カメラもろとも泥だらけになった上、日焼けでパンパンになった腕の皮がベリっと剥けてしまった。油断した。でもカメラは無事なようだ。

そこからは、危険なのでカメラはザックの中にしまって、一気に五輪高原上部まで約 1時間で下る。下るといっても長い尾根伝いなので、細かいアップダウンがあり結構しんどい。五輪高原に差し掛かったところで一気に視界が開けた。花園三角点 (1753.6M) 辺りのピークまで気持ちのよさそうな尾根を木道が湿地帯を縫って続いている。カメラを出して写真を撮りながら下っていくと、
「あらら、道がなくなっちゃったぞ...。ガーン。」
正しいルートが稜線の左を巻いていく取っ掛かりのところの鋭角の曲がり角を突っ切って踏み跡に入り、 30M 程下ってしまっていたのだ。でも踏み跡があるということは、みんなそこで間違えるということだ。すぐ後を歩いていたパーティはちゃんと左に曲がって下りていったようで、
「教えてくれてもいいのに...」
と憤慨しながら登り返して元の道に戻る。花園三角点から先にはカモシカ坂という名前のいかにも不気味な下りが待ち構えているというのに、ここでの体力と脚力の消耗は非常にもったいない。約 30分ほどで花園三角点に到着。この先は白高地沢まで 450M 程一気に下りなのでここで一服する。既に 8時を回っていて太陽の日差しがじりじりと真っ赤に日焼けした腕に突き刺さってくる。

カモシカ坂はホントに急坂だった。取り付きは道とは言えないぐらい激しくえぐれていて、雨が降れば間違いなく沢と化すであろうルートだ。樹林帯に入っても道はやはり荒れた急下降で、もはやストックを持って下ることは不可能だった。そもそも大ザックには厳しいルートで、巨大な倒木の上を馬乗りになって越えなければならなかったり、ルート上の岩を攀じ登ったり...、ゴツッ!! 岩を攀じ登っているときに激しく頭を岩にぶつけてしまった。帽子の鍔で上が見えなかったのだ。触ってみるととりあえず血は出ていなかったが、あっという間にたんこぶになってしまった。そうしてコースタイムで 1時間 10分のところを 1時間 20分かけて、汗だくドロドロクタクタになって白高地沢に到着。飲んだ水はこの下りで全部汗になってしまった。ものすごい蒸し暑さである。倒れこむようにして流れのすぐ近くにザックを下ろし、ここ一番のナシを剥いて食べる。ナシは重さの割には栄養はないかもしれないが、水分と糖分で生き返った気がする。

今回は水の消費が多い。学生の頃は減水登山などといってあまり飲まずに歩いたしそれでも歩けたが、そろそろ年なのでいろいろ考えることもあり、行動中、水はできるだけ摂るようにしている。一昨年の針ノ木の惨状が思い出されるかというと、まったくそんなものは忘れていて結構水場の水をがばがば飲んでいた。この白高地沢はかなり大きな流れで、地図上では水場マークがついているし澄んでいるが、直感的になんだか飲まない方がよさそうな感じがした。水筒の残りに不安はあったが、ここでは給水せず次の水場まで持たせることにした。

ナシを食べて、40分の大タテをして出発。ここから登り返し地点の瀬戸川橋まではほぼ等高線沿いの 200M の下り、のはずだったが、なんと峠越えがあって恐ろしく体力を消耗した。高度が低いのも災いし、ものすごい蒸し暑さで体中から汗が滴り落ちてくる。地図上でコースタイム 1時間の区間なので、そんなに甘いはずもなく、55分が経過した時に現れた途中の水場で思わずタテてしまった。こういう暑さの中で出会う水場は本当に極楽だ。

瀬戸川橋はそこから 10分のところにあった。ここは渓谷の底であるため、橋の袂から急角度の斜面がせりあがっている。しかも道は直登に近い急坂だ。幸いペア ストックのおかげで、ここまでの下りで足が笑ってしまうことはなかった。これはかなり快挙なことなのだが、この急登を目前にしてほとんど戦意喪失状態。十分な休憩を取って一気に登ろうと思うが、橋の近くには木陰もなく 12時の太陽が真上から照り付けてくる。長居すればするほど体力を消耗してしまいそうなので、チョコレートをかっこんで出発。兵場の平湿原(写真右)まで一気に 200M の直登...、のつもりだったが、この登りは辛いなんてものではなく、下りで消耗しきった身体に相当の負担をかけないと登っていくことができない。体力もすぐに限界に達して途中一回の休憩をはさみ、約 1時間後、完全にガス欠状態で兵場の平に到着。やっと平なところに着いた。 兵場の平湿原

でもそれでは終らなかった。さらに蓮華温泉に着くためにはここから 140M の高低差を越えなければならないのだった。しかも、だらだらとした階段が続く道を延々登ってやっとこさ兵馬の平を周る自然道の起点に着いた。もうこれ以上は 1メートルだって登りたくないし、だらだらと 50分もかかってしまっているので、ここでちょっとだけ休憩することにした。兵馬の平を出た頃からガスってきていて、ちょうどいい具合に涼しいし、後は蓮華温泉までほとんど下るだけだ。その時、ポツ...ポツ...ポツポツポツポツ、
「あぁぁ、またかよぉ... あと一歩ってところなのに...。さっき橋からの急登で休んでいたときに抜いてった人は、もう着いているんだろうなぁ...。」
などと考える間もなく、遠くからザーッという音が聞こえてきた。昨日と同じ状況はなんとしても避けたいので、速攻でゴアを着てザックカバーを取り付けるが早いか、もう雨脚は激しくなってきていて雷もゴロゴロといいながら接近してくる。

長居は無用なので即出発。すると下りの道はまたもや木道でつるつる滑る。ここはゴメンということで、ストックを突きながらとにかく急いで下る。と、程なく蓮華温泉のキャンプ場の脇を通り、すぐに林道に飛び出てしまった。もうそこからは蓮華温泉ロッジが見えていたが、林道は長い上り坂になっていて、雨脚はますます強まり、
「最後の最後まで疲れさせられるコースだったなぁ。二度と通るまいぞ。」
と心に誓いながらロッジまでの最後のアプローチを登って行くのであった。


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