雪渓とお花畑と灼熱地獄の記録
(白馬岳 - 朝日岳: 2000/8/3 - 2000/8/7)


2000/8/5: 村営白馬岳頂上宿舎 〜 朝日小屋

起床(3:00)→ 村営白馬岳頂上宿舎テント場発(4:20)→ 白馬岳(2,932.2M)山頂着(5:00)/ 山頂発(5:15)→ 三国境通過(5:45)→ 鉢ヶ岳手前鞍部(6:05)/ 写真撮影後発(6:22)→ 雪倉避難小屋着(7:15)/ 行動食後発(7:40)→ 雪倉岳(2,610.9M)山頂着(8:25)/ 山頂発(8:50)→ 雪倉岳雪渓下の水場着(9:25)/ 水場発(9:40)→ 赤男山手前鞍部タテ(10:10)/ 鞍部発(10:20)→ 朝日岳、白馬水平道分岐手前着(11:15)/ 行動食後発(11:45)→ 水平道雪渓下タテ(12:25)/ 雪渓下発(12:40)→ 朝日小屋着(13:45)
(歩程 9:25)

今日は道のりが長いので早起きをしたのに、ちょっと手間取ってしまって出発は結局 4時 20分になってしまった。天気は上々だ。昨日の天気予報(と言っても隣の高校生テントの気象通報を失敬したのだが...)によると日の出は確か 4時 55分 ぐらいだったのでできればそれまでには山頂に着きたいと思うが、朝イチの一本目はやはりきつく白馬岳山頂に着いたのはちょうど 5時を回ったころだった。しかし、下界は雲が結構出ていて、太陽が雲から顔を出したのはちょうど山頂に着いた直後という絶妙なタイミングであった。

山頂はごった返していてあまり長居はしたくない雰囲気であったが、360度の展望が開けていて、黒部山塊、槍穂、そして反対側は戸隠方面まで一望できた。残念ながら雲のせいで佐渡島までは見えなかったが、戸隠方面、蓮華尾根の延長線上にどう見ても煙を吐いているように見える山があった。
「妙高だろうか。でも妙高は休火山だったかな?」
20万図を持っていないのでせめて写真を撮っておきたいのだが、今回は軽量化のために三脚を持ってきていない。その上、ISO 50 の RVP を入れているため f4 の FUJI GS645S ではほとんど手持ちでの撮影は不可能だった。このカメラは軽いのはいいのだが、軽すぎてシャッターを押すときにブレやすいという欠点がある。三脚を置いてきたことがやはり非常に悔やまれる。それでも、それらの風景を何枚かの写真に収めて、15分後に出発。煙の山はもう少し明るくなってから撮るしかないが、まったく日が昇ってしまうと煙が見えなくなってしまいそうなので、そこそこ明るくなったところで気合を入れて写真(写真右)に収めた。
蓮華尾根方面

山頂から三国境への下りは、今回ペアストックを使っての初めての下りである。長さを長めに調整して、交互に突きながら下ると、非常にテンポ良く、また足への負担もなく下ることができた。ただし、どうも交互にストックをつかなければならないという脅迫観念のようなものにも陥るようで、大してストックの助けが必要なく、何もなければ軽快に下っていけるところまで、丁寧に交互にストックを突きながら歩いてしまうのでなんだか余計な時間がかかってしまうのだ。それでも、結局、今回は 2年ぶりの夏山なので足への負担軽減を最優先することにしてストックをしまうのはやめた。

山頂から約 30分で順調に三国境を通過。ほとんどのミーハー登山者はここから白馬大池を経て蓮華温泉に下ってしまうので、この先は今までの喧騒がウソのように静かなルートになる。山頂を出て 1時間強で鉢ヶ岳手前の鞍部に到着。コマクサの群落がすばらしいのでしばし写真を撮り歩きながら休憩。ここまでの群落は今まで見たことがないぞという程大きな群落だったが、ここでも三脚がないので十分な被写界深度が取れず口惜しい思いをする。

鉢ヶ岳はピークを通らず大糸線側を巻いていくが、小さな雪渓がいくつも残っていて気持ちの良いコースだ。オマケに白馬岳から朝日岳へのコースは有数の高山植物帯で、雪渓とお花畑、登山者もほとんどいないし、しかも晴天という夏山の贅沢を存分に味わうことができてまさに超快適である。ざまぁみろだ。でもこの晴天があとで仇になる...。

爽快なルートを抜け、約 1時間で雪倉避難小屋に到着する。ここまではほぼコースタイム通りの成績。ここから雪倉岳山頂までは、高低差約 200M の今日一番の登りである。今朝、白馬岳山頂から今日歩くコースを見た瞬間にいやーな気分にさせられた本日一の懸念ポイントなので、ここでしっかり腹ごしらえをする。小屋は無人小屋で中はけっこう強烈な匂いが立ち込めているので、小屋の外で行動食のフランスパンに蜂蜜を塗ってチーズと一緒に食べた。頭上はどピーカンで嬉しい限りだが、一方で気温がぐんぐん上がってくるのでさっさと登ってしまわねば。

縦走路から白馬岳と旭岳を望む カロリーを補充して、一気に雪倉岳山頂を目指す。ペアストックの助けを最大限に利用して 45分で無事頂上に到着。雪倉岳の南斜面一面を覆う高山植物で疲れも忘れるほど、ではなく、やっぱり死ぬほど辛かった。にしても、このコースの高山植物の多さには本当に感動するので是非お勧めと言いたいところだが、まぁ行くかどうかを決めるのは明日(朝日小屋〜蓮華温泉)の分を読んでからにしたほうがいいでしょうな。

後ろを振り返る(写真左)と白馬岳からの道のりが一望でき、随分と歩いた気になるが、実は今日のコースはここから先の方が長いのである。距離的にも白馬岳からここまでよりも長いし、コースタイムも 4時間となっている。この暑さで夕立が早々にやってくるだろうが、どう頑張ったとしてもせいぜい 12時着がいいところだろう。朝日岳方面を観察すると、さほど大きな起伏は見えないが、朝日岳手前の鞍部から朝日小屋(かなり大きく見えている)までは結構高度差がある。鞍部から朝日岳のピークを越えて行く道と分岐して白馬水平道というのが通っているのだが、一体全体何処が水平道なんじゃという感じだ。。

「今日一番の高度差を登ったのだからもういいだろう。」
ということでナシの出番となり、25分間の長大な休憩を入れて後半戦に備える。出発してしばらくすると、雪倉岳の雪渓下に水場がある。先行パーティはがしがしと一気に雪渓上を下って水場に向かっているが、こっちはザックも重いので正規のルートを通って水場まで下る。1.5L のグランテトラとテルモスの両方とも満タンの状態で白馬を出てきたが、高度もだいぶ下がってきて気温も高く、水の消費が結構多いのでここで補給。今回のコースは水場が多いのも特徴で、今時の北アルプスにあって珍しくあちこちで水の補給ができる。水を汲んで雪渓の冷たい水で顔を洗い、鼻に日焼け止めのローションを塗りなおしてザックに座って休んでいると、
「あれ? メガネがない。えーっと何処だっけ......ゲッ、しまった!! 日焼け止めクリームを塗るときにはずして、ザックの上に置いたんだ。ということは...」
案の定、フレームのひん曲がったメガネがおケツの下から出てきた。ドキドキしながらフレームを折れないように慎重に元に戻し、なんとか事なきを得た。今回に限って、予備のメガネ(普段使っている方)をクルマの中に置いてきてしまっていた。しかし割れないでよかった。こんなところでメガネを割ったら、それこそ万事休すだ。

そこから今回の縦走路中最低高度の赤男山手前の鞍部まで約 30分程で下る。2,000M まで下ってしまったため、もちろん樹林帯でしかもものすごく蒸し暑い。ここから白馬水平道の分岐までの約 1時間は、この日の縦走路の中でもっとも暑くて苦しかった。地図上に現れない小さな起伏が結構あり、灼熱の樹林帯は風も通らずジャングルのような蒸し暑さで本当に体力を消耗した。せめてもの救いはコース上のそこかしこに水が湧き出ているため、タオルを水に浸してそれを被って頭を冷やしながら行けるところだろうか。上に小屋もないのでもちろん飲める。

途中ちょっと開けてきたかなと思ったら、そこは小桜ガ原という名の湿地帯でいくつもの池塘の間をきちんとした木道が走っている。木道ではストックをついてはいけない(木道を傷めるから)というのを思い出しながら雪渓も残っている湿地帯を歩いていると、驚いたことにミズバショウ(写真右)がそこかしこに咲いている。これはガイドブックにも載っていなかったので、かなり得した気分で、南アルプス南部並みの熱帯ジャングル強行軍の中で唯一ホッとする風景だった。
小桜が原

蒸し暑さでヘロヘロになりながら、どうにかこうにか白馬水平道の分岐までたどり着きそこでタテ。というのは実は結果的なハナシで、どう見ても分岐点はすぐそこなのにいつまでたっても分岐点が現れないので、いい加減イヤになってザックを下ろして行動食を食べることにした。そして出発したら、なんとその 10M 先が分岐点だった、というのがことの真相である。水平道の入り口には「水平道は開通」の立て札。夏山シーズン初期には雪が多いので閉鎖されていることがあるというのをガイドブックでは読んでいたが、今日は途中すれ違った大学生に既に開通しているという情報をもらっていた。なんと彼は 30KG のザックを担いで単独で親不知から栂海新道を登ってきたという。こっちは灼熱地獄でたまらんと思っていたのに、彼は
「いやぁ、やっと標高が上がって涼しくなりましたよ。ホント、ここは天国ですねぇ。」
と、涼しい顔で語った。

水平道は最初のうちは実際に水平だった。ところがミズバショウの群生を抜ける木道をしばらく歩くと、なんと下り始めてしまった。結構大きな雪渓の残る斜面をバンバン下ってしまうのでもったいなくて仕方がない。これではどんどん朝日小屋の高度から離れてしまうではないか。そうしてコースタイム 2時間の理由がだんだん分かってきたそのころから辺りはガスが出始め、雪渓の涼しさと相まってぐんぐん気温が下がってきた。オーバーヒートした身体にはちょうどいい。40分程歩いただろうか、
「もうこれ以上は下らないでちょ、お願いだから...。」
などと祈るような気持ちになった頃に、目の前にやや大きめの雪渓が現れた。赤粉の撒かれたルートはそこを一気に直登している。
「あ、やっぱり残りの 1時間は、登りなのね...。」
と静かに悟って、本日最後の登り 150M の高度差に備えて最後の休憩をする。通りかかったおっさんと、
「いやいや、やっと涼しくなりましたねぇ。」
などと言葉を交わした。おっさんが雪渓の上部に到達し姿を消していくと同時に出発。

出発して 10分もしないうちに雪渓は終わり、いきなりまたガレ場の急登が始まる。と思うや否や、ポツポツと降り出した。
「あ、ついに来たか。涼しくなって良かったなんて言うもんじゃないのね...。」 と反省。
「でもまぁ、そうは言ってもこの急登で雨具を着れば暑そうだし、そんなすぐには本降りにはならないだろうな。」
と思ったが、一応カメラはザックにしまいザック カバーだけはかけた。ところがそこからものの 100歩も行かないうちに、ザーッという音が聞こえくるや、あっという間に前も見えないほどのどしゃ降りになってしまった。とりあえずザック カバーはかけているし、幸い樹林帯の巻き道なので大ぶりの枝の下に入ってしばし様子を見ることにする。樹林帯とはいえ急斜面のトラバースなので、コース上にザックを下ろして雨具を出すほどのゆとりはない。雨脚を見ながら、大きめの木から次の木の下へ、という具合にチマチマ進んでいると、「ピカッ!!」..............「ドカーン」。その間 1秒強。
「ヤベ、こりゃ真上だな...。」
間断なく襲ってくる雷の下でハデに動くと見つかりそうなので、しばし緊張の時を過ごした。そこへだ、驚くなかれ雨具を着たオバサンがいきなり現れ、あっけに取られているこっちのことなど見向きもせずに雨を切り裂いて一気に突き進んでいった。樹林帯とは言っても沢筋を超えるところなどは完全に開けたガレ場だし、大体鉄砲水というコトバを知っているのだろうか。恐るべしパワーというか無謀さというか。

ちょっと小降りになったところで意を決して行動を開始する。雨は降っているが涼しくて気持ちがいいのでそのまま雨具は着ないで進む。暑さがないのと雨が降っているのとでさほど疲れることもなく、それでも雨宿りしつつなので結構時間をかけて登った後、ようやく稜線が見えてきた。近くではなくなったが、雷は頻繁に鳴り続いているし雨は降り止む気配もないので、次のが来る前に何とか小屋に着きたいところだ。樹林を抜けてしまったが時間が惜しいので雨具をつけずに一気に小屋までこのまま行ってしまうことにした。主稜線に出てしまえばあとほんの 10分程度のはずだ...った。が、水平道が朝日岳からの道と合流する地点に着いた瞬間、ザバーッとこれまでにない勢いで降ってきた。バケツ 100個どころではない。あっという間に背中の中まで水が回ってきた。
「うわっ。こりゃダメだ。このままじゃ、パンツまで濡れてしまうぞ。」
というわけで急遽ザックを下ろし速攻でゴアを身につける。この雨が来たということは後ろからは第二段の雷が迫って来ているということだ。稜線上にいる身としては一刻を争う事態なので、ゴアを着るなりとにかく小屋まで一目散にダッシュする。朝日の主稜線上にいる人たちは大丈夫だろうか...。小さなピークを一つ越えると朝日小屋が見えてきた。テン場はほとんど川の中だ。

朝日小屋の入り口に飛び込むと、そこは人が 4人も入ると一杯になってしまうぐらいの広さの入り口兼乾燥室だった。中では既に 2人の人がゴアの上着を脱いで紐にかけ、雨の止むのを待っていた。さらに軒下に 2人。雨はますます強くなり、雷も凄まじいのがガンガンやっていて当分止みそうもない。突っ立っているのも何なので、ザックを下ろして小屋の受付でキャンプ申し込みをしてビールを買った。玄関に戻ってみると軒下の 2人は雨の中テントだけを持って飛び出していった。が、とたんにますます大降りになって、為す術もなくすぐ戻ってきた。こういうときは慌てても仕方がないので、ビールを飲みながら小降りになるのを待つ。30分後に小降りになった隙を狙ってやはりテントだけを持って飛び出し、ちょっと高くなっている川にならなそうなところを無事確保。

テントの中で着替えをして入り口から顔を出してシャツを絞る。今回、新たに新素材のポロ シャツを導入した。これはどんなに汗をかいてもちっとも濡れた感じがしないスグレものだが、ここまで濡れるとやはりどうしようもない。雨はしばらく降ったり止んだりを繰り返していたが、テントの中で行動食を食べてちょっと昼寝をすると、目を覚ましたときにはもう日が差していた。

小屋の周りは一面のお花畑で、テント場のすぐ下は雪田になっている。小屋から 50M も朝日岳の方に歩けば、白馬岳までの展望が開けている。キャンプ場のロケーションとしては、なかなかのの好立地だ。もう日が燦燦と降り注いでいるので濡れたシャツをテントの上にかけて乾かしつつ、コーヒーを沸かしたり、写真を撮ったりという贅沢な時間を過ごす。今日もまたコースタイムを大幅に上回ったが、14時前には到着していたので時間はたっぷりあるのだ。夕方、メシを食い終わってのんびりしているとカメラ オヤジが立ち入り禁止ラインを越えて中に踏み込んで高山植物の写真を撮っていた。隣のテントの人が注意をすると、
「いいんだよ! ここは。」
などとわけのわからん事を言って逆ギレしていた。こういうあきれたカメラ オヤジは最近何処にでもいる。

今回は軽量化のためラジオも置いてきたので、メシを食って歯磨きをしたらあとは寝るだけだ。寝る前に明日の行程を確認しようと地図を眺めていたら、明日は標高 2,419M の朝日岳を越えて蓮華温泉まで約 900M の高度差を下るだけだと思っていたのに、実は 1,300M を一気に下って標高 1,100M 付近の瀬戸川橋から 400M 弱の登り返しがあるということを発見。どうりでみんな三国境から蓮華に下りてしまうわけだ。でなければ、こんなに高山植物の多いルートに人が来ない筈はない。なんにしても、高度、気温、瀬戸川橋の辺りを通過するであろう時間帯から見て、最後の登り返しが今回最大の難所であろうことは容易に想像がつく。一瞬、このまま当初の予定通り、あと 2日をかけて親不知まで行ってしまおうかという考えが頭をよぎるが、そっちはそっちで灼熱地獄があと二日続くことになる。予定変更はなしだ。体力温存のために朝イチの朝日岳への登りは気温が上がる前に終えてしまおう。というわけで明日は 2時半起きに決定。


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