ヒマラヤトレッキング日記
〜 カラパタール / EBC トレッキング編 〜


トレッキングのまとめ

『カラパタール / EBC トレッキング編』の最後に、「中判カメラでの写真撮影を中心にしたトレッキング」という前提で今回のトレッキングについてまとめてみることにする。

テント泊かロッジ泊か

今回のトレッキングでは中判カメラを担ぎ上げての撮影を重要視していたため、夜間や早朝の撮影の自由度、天候変化に対する素早い対応などを考慮して当初はテント泊を考えていた。もちろんその方が自由度が高まるのは言うまでもない。しかし、テント泊を前提とした場合、テント、食料などのすべてを荷揚げをしなければならないだけでなく、ガイドとポーターの他に料理を作ってもらうためのコックやキッチンボーイを同行させなければならず、さらに彼らの食料やテントなど装備が嵩み、単独行にしてはあまりにもコストがかかってしまうことなどから最終的にはロッジ泊ベースとすることにした。

今回に限って言えば、若干の不自由さは感じたものの、以下にあげるような理由から結果的にはロッジ泊は正解だったと言える。

一方、ロッジ泊であることのマイナスポイントとしては、

天候について

ロッジに関する記載のところでも触れたが、今回トレッキングを行った時期の天候は、早朝から午前中は快晴。午後にかけて強風が吹き始め、夕方から小雨または雪。と言うのがほぼ毎日の天候変化のサイクルであった。雪が降るといっても積雪は最大でも 5cm 程度にしかならなかったため、一般道上ではアイゼンの必要性はない。スパッツとストックはあればもちろんあったほうがよい。

気温は早朝でもロッジ内なら摂氏 0度以下には下がらない。外も最低で摂氏 -6度 (Everest Base Camp、および Chhukung の早朝で) 程度であったか。もちろん風が吹けば体感温度は下がるが、感覚的には日本の北アルプスの方がよっぽど寒いといえる。

トレッキングルートについて

非常によく整備されている。特にルクラ (Lukla / 2,860m) からパクディン (Phakding / 2,652m) へのルートの前半部分は石畳が敷かれている程である。日本のように急峻なルートはモレーンをよじ登る時以外にはあまり無く、基本的には川や氷河に沿った山腹道を歩くため非常にゆっくりとした低勾配の登りではあるが、いかんせん上に行くにしたがって酸素濃度が下がる (カラパタールでの気圧は 500hPa で酸素の濃度は地上の半分程度) ため、登ること自体は結構きつい。つまり、脚力で登るよりは心肺機能とスタミナで登っていくという感じである。

トレッキングルートはシェルパやヤクが荷揚げを行うための生活道でもあるため、人間同士がすれ違うには十分な道幅が取られている。さすがにヤクの隊列が上がってくると、山側にちょっと登ってよけるというようなことは必要になるが、それ以外はほぼすれ違いが困難であるという場面には遭遇しない。もちろん高山ゆえに登りの人は非常に辛い状況なので、下りの人が道を空けて待ってあげるのはここでも当然のマナーである。

吊橋は現在では殆どのものが鉄製の吊橋もしくは鉄橋に付け替えられていて、サイドもしっかり鉄製の網が張られている為、落ちる可能性はほぼゼロに近い。また、ヤクが何頭も行き来するのだから強度的にも不安は一切ない。但し、うかうかしていると反対側からヤクがやってくる可能性があるので、渡るときは素早く渡る必要はある。

装備について

今回使わなかった装備等についての詳細はトレッキング装備計画表にまとめて記載するが、基本的にロッジ泊を前提とした場合には日本のテント行を前提とした装備計画よりはかなり落としても大丈夫である。

シュラフとシュラフカバー、ダウンジャケットは必須。ロッジの個室のベッドには基本的にマットが敷かれているが、その上の布団は有料だ。今回は特に被害にはあわなかったが、ダニや南京虫に刺されたりするのを避けるためにも、ロッジのマットの上にシュラフカバーとシュラフのセットで寝るのがよいだろう。なお、エアマットは一度も使わなかった。

今回、ナムチェバザールで調達しようと思っていて結局買わなかったものに EPI のガスボンベがある。もともとボンベは現地調達のつもりで日本からはガスボンベのヘッドだけもって行ったのだが、ルート上には一時間おきぐらいにロッジか茶屋が必ずあってそこでお茶を飲めるし、ロッジでどうしても自分の食料を調理したいと思ったら、ロッジのキッチンを借りることもできるので、一般道のみを歩く前提であればコンロ類は必要ないだろう。もちろんカラパタールの頂上でお茶やコーヒーを沸かしたいという希望があれば別だが、それだけのために荷揚げするのももったいない気がする。また、同様の理由からコッフェルも不要であった。

今回のトレッキング中はどこでも蚊はいなかったのだが、本文中にも記載したようにロッジ内は全館禁煙であるため蚊取り線香は使えない。したがって、ルクラより標高の低い地域をトレッキングするのではなく、またロッジ泊を前提としているのであればこれは持って行っても意味がないかもしれない。それよりはスプレー式の虫除けや、ティーツリーオイルなどを持っていったほうが有用であろうと思われる。

その他、ガイドやポーターに喜んでもらえたので持って行ってよかったと思ったものとして、双眼鏡とホカロンがあげられる。行動中、三脚を立ててじっくり写真を撮っている間、基本的には彼らはその場で待っていてくれるのだが、ずっと待っていてもらうのは何とも申し訳ない気がしてしまう。暇つぶしに双眼鏡を覗いていてもらえばこっちも気兼ねなく思う存分写真が取れるし、朝夕の時間帯など、寒い中で待っていてもらわねばならない時などは、ホカロンがあれば暖をとっていてもらえる。同様にテルモスにタトパニ (お湯) を入れていくのも有難がられる。そういった荷物はポーターのザックに入れておけばこちらとしては特に負担もなくて済む。

さらに双眼鏡は子供に大ウケなので、地元の子供達とのコミュニケーションを図るためのツールとしても使うことができる点も重要だ。彼らは毎日山を眺めて暮らしているが、双眼鏡で間近に見たことはあまりないのだろう。もちろん子供だけでなく、ロッジのオヤジなどとも双眼鏡を覗きながらあれこれ話をすることができてとてもよい。

荷物の分担

ポーターを雇った場合には自分で背負うのは最低限の水筒、雨具、貴重品、薬品、行動食、非常食、防寒具程度でよい。もちろん写真を前提とした場合にはこれに機材とフィルムが加わるので、一般のトレッカーに比較するとものすごい荷物になってしまうのは諦めるしかない。それでも日本で単独のテント行に機材をもって行き慣れている人であれば、随分軽い装備で登れると言うものだ。

上記以外のものは基本的にポーターおよびガイドに持ってもらうことができるが、間違っても撮影機材をポーターに渡してはいけない。これはもちろん盗難防止の意味もあるが、それ以上に、ポーターはトレッカーと一緒に歩かない場合が多いためである。特に大きなパーティになれば出発時間も異なることが多く、遠征隊のようにヤクを使う場合はなおさらである。ポーターは荷物がものすごく重ければ後からゆっくり来るし、ガイドに頼まれて先に行き、ロッジの部屋を確保するなど別行動となる場合もあるので、機材を彼らに預けてしまうといざ景色のよいところで撮影しようと思っても、三脚が先に行ってしまったなどという口惜しいことになってしまうのだ。

では、何キロぐらいまで彼らに背負ってもらうことができるのかと言うと、いわゆる商業用の荷揚げを行っているポーターなどは、ゆうに 100KG を超える荷物を背負って登っているのを見かけることがあるし、20〜30kg の荷物は余裕でもてるようだ。こちらが恐縮するほど彼らには重さが堪えていないのかもしれない。

治安について

本文中にも記載したように、クーンブヒマール (Khumbu Himal) 地方は、アンナプルナ (Annapurna) 方面に比較して安全だと言われるが、ルクラ (Lukla)、ナムチェバザール (Namche Bazar) のそれぞれには軍隊が常駐しており、マオイスト (外務省の危険情報のページを参照) の警戒、および、地元の住民の検問を行っている。

マオイストにも軍の検問に関しても、外国人ということでトレッキング中は特に不愉快な思いはしていないが、やはりマオイストの活動の活発な地域ではマオイストが外国人に Rs1,000 の寄付を要求したり、また、ロッジに食料を調達にやってきたりなど、それなりに緊張を強いられる場面はあるようだ。

ひとたび山の中に入ってしまえば、村の人々は非常に友好的で優しく、ガイドやポーターと一緒に行動する分には何も心配することはない。特にこのルートに限っていえば人通りも非常に多く、よっぽどのことがなければ山賊も活動する余裕はないのではないかと思われる。

女性一人+男性のガイド (またはガイドとポーター) という組み合わせも何度か見かけたが、よっぽど信頼のできるガイドでない限りは、男性の単独行よりはむしろそっちの方があまりお薦めはできない気がする。なんと言っても二週間近く行動を共にするのであるから、ガイドやポーターが妙な感情を持ってしまうとせっかくのトレッキングが不快なものになってしまいかねないからだ。

とは言え、初めてこの地方でトレッキングをするのであれば、ガイドもしくはポーターを伴ったほうが地元の流儀などを知る上では有効であるし、彼らの情報網を利用することもできるので便利であると言える。

高山病は予防できるか

今回はダイアモックスを服用し、高度順応日も設けて行ったのだが、ゴラクシェプでは高山病の症状が現れてしまった。その原因は、恐らくロブジェ (Lobche / 4,930m) を出た日にカラパタール (Kala Pattar / 5,545m) のさらに上のピーク (5,650m) まで一気に短時間で高度を上げたことによるものだと思われる。一般的には、高山病を避けるために一日に 500m 以上高度を上げてはいけないとされているが、この日に限って、ロブジェを出発して 5時間後には 720m も上のカラパタールのピーク上で写真を撮っていたという、超ハイスピードで高度を上げたことが高山病の症状を誘発したのだと思われる。

では果たしてダイアモックスは効いたのかというと、これは不明。外務省のホームページのボリビア発の情報に書かれているように、確かに手足の先がジンジンと痺れていたのでクスリそのものは効いていたはずだが、果たしてダイアモックスがゴラクシェプでの半日の高山病以外のすべてを抑えてくれていたのかは結局分からないのだ。

周囲の高速トレッキングをしてきた連中の話を聞く限りにおいては、少なくとも 4日など短期間でカラパタールまで上がった場合には、ロブジェ以上の高所ではかなりの率で頭痛と不眠に悩まされるようなので、充分な高度順応が必要であることは確かなのだ。

一方、ゴラクシェプで頭痛の中、辺りを歩き回っていたときにキリストのようなシェルパの男性が教えてくれたガーリックスープは、高山病の症状を瞬時に消し去った。実はここに至るまでも何度かガーリックスープを飲んでいたので、本当はダイアモックスではなくてガーリックスープのお陰で、高山病がある程度抑えられていたのかもしれないのだが実態は不明だ。

写真を撮るなら...

最後に、写真を撮ることを前提にこの時期 (3/27〜4/10) にトレッキングを行うことに関する注意点などを列挙すると...

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