ヒマラヤトレッキング日記
〜 カラパタール / EBC トレッキング編 〜


2004/4/6 (Tue)

夜半雪(積雪 1cm)、快晴、のち昼頃から曇り、のち雪

起床(6:30) → 朝食(7:25) → Pheriche (4,215m) / Himalayan Hotel 発(8:20) → 4,400m の峠で写真たて(8:40〜9:05) → Dingboche (4,350m) / Mountain Paradise Lodge 着 for 昼食(9:20) → Mountain Paradise Lodge 発(10:35) → たて at 4,400m (10:50〜11:00) → 写真たて(11:20〜11:35) → たて at Sunset Hotel (4,650m)(12:05〜12:20) → Chhukung (4,730m) / Sun Rise Lodge 着(12:50) → 夕食(19:00) → 就寝(20:30)

(Pheriche 〜 Dingboche 歩程: 1時間 / Dingboche 〜 Chhukung 歩程: 2時間15分

「あっという間にディンボチェ」

Pheriche から上流を望む 6時半に起床。トイレに行くと状況は久々の上の上。ロッジの外の水場で洗顔と歯磨きをし、外でぶらぶらと写真を撮っているとちょうど O 氏も出てきたので、二人でそれぞれ相手の写真を撮って記念撮影。7時15分ごろまでダイニングで待つがケサブ君はまだ起きてこない様子なので先に朝メシをオーダーする。朝からチキンスープヌードル。そんなことはないのだが、なんだか最近麺類だけで歩いている気がしてくる。それとチャーを頼む。

昨日の夜、今朝ともダイアモックスは既に服用していないにもかかわらず、なぜか手先が痺れている。やっぱり量が多すぎたのだろうか、体内にダイアモックスの成分がまだ残っているのかもしれない。

今日タンボチェ (Tengboche / 3,867m) まで下ることになっている O 氏は先に出発。こっちはチュクン (Chhukung / 4,730m) まで登り返すので、下山日は彼より一日遅れることになる。カトマンズで再会する約束をして別れる。

ようやくケサブ君も起きてきて朝メシを食い、やや遅めの 8時20分にロッジを後にする。天気はド快晴である。大きな風力発電用のプロペラの回る、ヒマラヤ救助協会 Himalayan Rescue Association の建物の脇を通って、一気に山腹に上がっていくルートをとる。夜半に降った雪は 1cm ほど積もっていて、TRB は靴が滑ってしまって登るのに苦労している。ところで、ヒマラヤに来てまず驚くのは、トレッキング中に見かけるポーターやガイドの靴が、多くの場合ただのスニーカーだったりすることである。もちろんケサブ君はちゃんとしたトレッキングシューズをはいているが、TRB は底がペラペラ、溝も殆どないスニーカーで歩いているし、サンダルで歩いていたりするガイドを見かけることもある。まぁ、彼らにとってはこの地域は庭みたいなもので、わざわざ庭を歩くのに仰々しい登山靴やトレッキングシューズなどちゃんちゃらおかしくって履けるかよ、ということなのだろう。それにしても、あの大荷物をその程度の靴で荷揚げしてしまうのだから、やはりポーターの力は侮れないのである。それに比べて、ロッジの主人などはやはり金回りがいいのだろうか、ピカピカの Nike のスニーカーなど履いていたりするが、わざわざヒマラヤまで来てそういうのを見てしまうと、なんだかちょっと興ざめしてしまうというのもあったりする。 4,400m の峠から Pheriche を俯瞰する

Kantega と Thamserku 登り始めて 20分程で、小さなチョルテン (仏塔) のある、ディンボチェ (Dingboche / 4,350m ) との間の峠に到着する。ここは三日ほど前、ディンボチェからトゥクラ (Tukla / 4,620m) に向かうときに通った峠よりも若干低い位置にある。眼下のペリチェとその上に聳えるタウォツェ (Tawetse / 6,501m) とチョラツェ (Cholatse / 6,440m)、反対側にはタムセルク (Thamserku / 6,623m) にカンテガ (Kantega / 6,799) が雪景色の中に見えている。チュクンの方面を望めば、逆光で雲はかぶっているもののローツェ (Lhotse / 8,516m) も何とか見えている。

ここで 25分程時間をとって三脚を立ててゆっくり写真を撮る。写真を撮り終わって機材を片付けていると、ペリチェの方向から女性二人のパーティが登ってきて、そのうちの前を歩いていたほうの女性が問いかけてくる。
「英語はなせます?」
「はい、大丈夫ですよ。」
「この道、ディンボチェに向かってるのよね?」
「そうそう。そこを超えて下るとディンボチェですよ。」
「よかった。ありがとう!!」
うーむ、ガイドを雇わないのであれば、地図ぐらいは持ってた方がいいと思うのだが。

そこからディンボチェまでは 15分ほど下るだけ。行きに 3泊もした Mountain Paradise Lodge に再び到着。まだ、ペリチェを出て一時間程しか経っていないため時刻は朝の 9時だが、今日の残りの行程はチュクンまで登るだけなので、ここで、さっさと昼メシを食ってしまうことにする。サンルームに入ると、韓国人の男性が一人寛いでいる。下痢の一件があるので念のため油ものは避け、「Rara Soup Noodle」とトーストを 2枚オーダーする。今日は暖かく高度も下がってきているので、料理が出てくるのを待つ間にダウンジャケットをしまって、前回、ディンボチェを出発して以来履き続けていたゴアテックスの雨具のズボンも脱ぎ、これもしまう。

TRB が昨日ベースキャンプであげたホカロンをまだ大事そうに持っている。ホカロンのようなものは、日本にしかないのかもしれない。思わず、
「今晩寒かったらまた新しいのをあげるからね。」
と身振り手振りで伝える。
Dingboche と Lhotse と Island Peak

ケサブ君はお湯をもらって頭を洗ったそうで、すっきりした顔をしている。ナムチェバザールでの高度順応のための停滞日にシャワーを浴びて以来頭を洗っていないので、もう既に一週間以上、8日も頭を洗っていないことになる。トレッキングに入って以来ずっと着っぱなしのダクロン QD のラグシャツも、既に首の周りは真っ黒だ。あれだけ砂埃にさらされれば仕方がないが、空気が乾燥しているため不思議と日本の山にいるときほどは臭くない (と、思うのだが...)。着替えも持っているが、ナムチェバザールまで下りてシャワーを浴びた後に着替えるためにとっておこうと思っている。早くナムチェに下ってシャワーを浴びたいものだ。もちろん途中のロッジでもホットシャワーがあるところもあるのだが、大抵はロッジの外にある掘っ立て小屋の上に大きなバケツが乗っかっているというもので、よしんばそのバケツにお湯が入れられたとしても、寒くてシャワーどころではないであろうことは一目瞭然なのである。

食後、ぷらぷらとロッジの周囲の写真を撮り歩く。どこのロッジも売店を兼ねているので、建物の登山道に面した側には大抵入り口とは別に売店が作られている。このロッジにも売店があり、そこでは一番下の娘が店番をしていた。写真を撮ってもよいかどうか訪ねると、きっぱりと断られてしまった。まぁそういう年頃なのだろうが、この地方の人たちは写真に撮られるのを極端に嫌うというのもガイドブックで読んでいたので、そういうことなのかもしれない。

「午後は大雪」

ディンボチェを出て、前回下痢を押して登ったときとは打って変わって気楽に写真をとりながらのんびりと進む。ケサブ君も TRB も既にカラパタール (Kala Pattar / 5,545m)、エベレストベースキャンプ (Everest Base Camp / 5,350m) の二大目標を達成しているためか、肩の力が抜けてとてもリラックスしている表情をしている。途中の大きな平らな石の上で三脚を広げてアマダブラム (Ama Dablam / 6,812m) やローツェ方面の写真を撮っていると、中学生ぐらいの年齢の少年が 3人やってくる。TRB が覗いていた双眼鏡を彼らに貸してやると、3人とも大喜びで順番に双眼鏡を覗いている。トレッキングを通してこの双眼鏡は、現地の少年たちとのコミュニケーションツールとして大活躍した。もちろんケサブ君と TRB の撮影待ちの時間つぶしツールとしても絶大な威力を発揮したのであるが。

双眼鏡はコミュニケーションツールなのだ 山の写真を撮り終わって、少年たちとケサブ君、TRB を入れた写真を撮らせてもらうと、少年たちは一足早くチュクンに登っていった。前回チュクンに行った時に、「ロッジの丘の向こうは全部トイレだよ」と教えてくれたオヤジのいる Sunset Hotel という茶屋でしばし休憩。さっきの子供たちとは別の少年と TRB がなにやら真剣に話し込んでいる。人生相談でもしているのであろうか。ケサブ君もそうだが、彼らは赤ちゃんや子供たちがいると、すれ違いざまに必ず声をかけたり頭を撫でたりしている。もちろん話も沢山する。日本では大人が見ず知らずの子供に声をかけるなどということは最近めったに見かけなくなってしまったし、逆に下手に声をかけると犯罪者と間違われかねないというような状況の中で暮らしているだけに、こういうほのぼのとした大人と子供の会話を見ていると、本当にネパールは平和な国なのだとちょっと羨ましく思ってしまうのだ。

そこから 45分ほどでチュクンに到着。ケサブ君の目指していたロッジはまたしても満室だ。これは取りも直さず、かれのロッジ選びが的確であることを物語っているのだが。前回、昼メシを食べた Sun Rise Lodge に宿泊することにする。部屋はダイニングからちょっと離れた別棟にあるツインの明るい部屋だ。

ダイニングで少し休んでからカメラを持って外に出ると、さっきまで晴れていた空はどんよりとしていて気温も随分下がってきている。山は既にガスに隠れているか、背景の雲と山肌の雪とのコントラストが何もなく写真にならない。写真も撮れないし、寒いし、仕方がないので部屋に戻ってフリースをザックから出して着込む。ダイニングに戻るために部屋から外に出ると、ちらちらと雪が降り出した。今日は昨日よりもさらに降りだすのが早い気がする。

ダイニングではケサブ君と TRB がロッジの子供と遊んであげている。本当に子供好きな人たちなのだ。雪が降ってきたのでストーブも点いた。今日の宿泊客はどうやら我々 3人だけのようなので、3人でストーブの周りに集まってチョコレートやドライフルーツなど、もう多分使わないであろう非常食の一部を消化していく。残ったドライフルーツをもらったロッジの子供は大喜びしている。

14時ぐらいから雪がいよいよ本降りになってくる。トレッキングに入って以来一番の降りだ。風も強く、頭の上にある天窓の隙間から、時々粉雪がパラパラと落ちてくる。外にも出られないので、ひたすらカメラと双眼鏡の掃除をしながら、ケサブ君と TRB と話をする。登山靴の話になり、今回使っているマインドルの靴が、ケサブ君の年齢よりも歳をとっていることを聞いて彼は唖然としている。一方、TRB には、出発前に友人から真偽を確認するように言われた、『シェルパ族が好んで食べる、食べても辛い出しても辛い激辛饅頭』の存在について教えてもらう。セッパと呼ばれるその食べ物は、唐辛子を肉、ジャガイモ、野菜、バターなどと一緒に混ぜて丸めて、蒸かしたり揚げたりして作るのだそうで、存在は無事確認されたわけだ。残念ながら TRB は持ち歩いていないようなので、味見をすることはできなかった。もう一つ別の友人からもって帰るように言われている、『イエティのウンコ』についてはもちろん彼らには所在を聞かなかったが、どのみち探そうにも、ルート上にはヤクとウシと馬とイヌと人間のウンコが入り乱れて落ちているので、はっきり言ってその中にイエティのブツが混ざっていたとしても判別は不可能なのだ。ということで、こっちのリクエストは自動的に却下なのだ。

今日は昼メシを 10時前に食っているので、16時ぐらいになるとすっかり腹が減ってしまった。夕食までにはまだ時間があるのでどうしたものかと考えていると、TRB がキッチンに行ってポップコーンを作ってきてくれる。ポップコーンを食べながら、喉が渇いたなぁと思ってメニューを眺めると、そこにはなんと「Green Tea」の文字が。トレッキングに入って初めてだ。今回の装備計画にお茶が漏れていたのは実は重大な過ちで、いつもは食料計画を立てるために必ずセットでお茶が入るのだが、今回は食料が非常用のラーメンだけだったために、すっかりお茶をもってくるのを忘れてしまったのだ。嬉しくなって「Green Tea」の在庫が本当にあるのかどうかをケサブ君に確認してもらう。「ある」との答えに焦って「じゃぁお願い!!」と即答してしまったのがよくなかった。一番大切なことを言い忘れてしまったのだ。

ドキドキしながら出てきたお茶を飲んでみる。やっぱり... 出てきたのは砂糖入りの緑茶なのだ。

あまりのショックに肩を落として窓際に行き、外を見ると相変わらずの大雪でまったく降り止む気配はなし。17時15分現在で既に 3cm 以上は積もっている様子である。今晩こそは月明かりに光るアマダブラムを写真に撮りたいと思っているのだが、明け方までに止んでくれるだろうか...。ここまで天気が荒れてくるということは、カラパタール (Kala Pattar / 5,545m) からの下りで見た雷鳥似の鳥は、ホントにヒマラヤ産の雷鳥だったのかもしれない。

18時ごろ、晩メシのオーダーをする。今日ここまで上がってきて、明日以降はもう下るだけなのでもう警戒心もなく、トレッキングに入って初めて「Vegetable Momo」を注文する。モモとは、蒸し餃子のことでネパールの代表的な料理の一つである。それを聞いていたケサブ君もモモが食べたくなったようで、TRB と二人で一皿分をさらに追加する。彼らはそれのほかにカレーライスも食べるのだ。調理が始まると、ロッジのお嫁さんがこっちに出てきて、ちょっと動いてくれと言う。なんと、ダイニングの床下に食料の貯蔵庫があったのだった。イスをどけて床板を開けてみると、中にはジャガイモが敷き詰められていてその上に色々な野菜が乗せられている。

食事を終わって 19時半現在、まだ雪は降り止まない。明日は一応 3時半に起きてみて、月明かりのアマダブラムが撮れれば撮影。その後 5時にロッジを出て、日の出よりも前にロッジから見えるチュクンの丘に登ってローツェやその他の山に朝日があたれば撮影をするつもりだ。雪もかなり積もるだろうし、晴れればいい写真が撮れるかも知れない。ケサブ君と TRB には夕方のうちに、窓の外を指差して、
「明日の朝は日の出前に一人で写真を撮りに行くけど起きてこなくていいからね。だいたいあの辺に登って撮っているから、もし朝メシまでに戻って来なかったら、そのときはヤバイかもしれないからあの辺りを探してみてね。」
と冗談交じりに話したのだが、やはりあまりこういうことは口に出して言わない方がよかったようだ...。
床下は食糧貯蔵庫

ケサブ君と TRB はダイニングの窓際のベンチ兼ベッドで寝る準備をしている。ロッジではこの寝場所にもそれなりに値段がついている。ダイニングにはストーブもあるが、食事の時間が終われば消えてしまうし、窓際は当然隙間風も入ってくる。昼間 TRB に新しいのをあげる約束もしていたので、彼らにホカロンを一つずつ支給。ケサブ君も TRB も「やった〜!!」とばかりに嬉しそうに封を切っている。

部屋に戻って 20時半に寝る。


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