特徴など |
1996年に発売された RICOH GR1 のマイナーアップデートの改良型として、1998年 4月に株式会社リコーより発売された 35mm カメラである。 MTF 特性に優れ、グラフをも載せた上で『ノートリミングで全紙まで伸ばせる性能を目指した』とカタログ冒頭で謳う 28mm /F2.8 の GR レンズは、そもそも、前機種の GR1 から受け継がれ、後の 1997年にライカマウント用に限定発売されることにもなった 7枚羽根の絞りを採用した解像度、ぼけ具合、色再現性とも素晴らしい描写のレンズである。この大きさの、しかもマグネシウムダイキャストボディーにこの高性能なレンズが付いていることで、GR1 はいわゆる一般的なコンパクトカメラの領域を脱してプロ用サブカメラ、プロ用お散歩持ち歩きカメラの領域まで一躍駆け上がることになったのである。 GR1、GR1s、さらに 2001年 9月に発売された GR1v、そして 21mm レンズを装着して 2001年 4月に発売された GR21 の 4機種については、ライカとは別のまた一つの独自な文化を築いてしまった感もあり、その実力は数々の書籍、写真集や作品によって証明されているので、敢えてここで詳しく書くのもおこがましく割愛したい。 GR1 から GR1s への変更部分は、花型レンズフードの標準装備、液晶表示部のバックライト、遠景モード、スナップモード時のピント位置をモード選択時に固定して、シャッターのタイムラグを減らした点、そして、オートデート機構付の GR1s DATE では、その名のとおりオートデート機構が追加されている。 ピントは マルチ (7ゾーン) 測距のパッシブ方式 AF で、220ステップの測距ゾーンを持つ。最短撮影距離は 35cm、ファインダー内には測距ポイントが表示されるほか、パララックスの補正も 1.5m 以内、0.7m 以内、の 2段階で自動的に表示され、さらに、測距を中央一点に固定するシングル AF モードも備えている。遠景やコントラストの低い風景など測距ポイントが迷う場合には、遠景モードでピントを∞に固定することもできるし、またピントを 2m に固定したスナップモードと絞り優先 AE との併用でスナップでのパンフォーカス撮影も簡単に実現することができる。露出補正は 0.5EV ステップで ±2EV までと必要充分な機能を備えている。 一方、フィルム感度設定が DXモード対応のみということで、増感現像を前提とした撮影ができないところ (この点に関しては、2001年 9月発売の RICOH GR1v にてフィルム感度のマニュアル設定が可能になっている)、フィルムのプリローディングにかかる時間が結構長いため、いざというときにシャッターチャンスを逃してしまう場合があるというところが残念な点であろうか。さらに、せっかく GR1s で追加された花形のフードだが、プラスチック成型で溝が浅く、比較的短期間で締りがゆるくなってしまってすぐに落ちてしまうところはもうちょっと考慮されるべきであったかと思う。また、絞りのダイヤルにはロックがないため、気がつくとプログラム AE の 「P」の位置から隣の 「2.8」 にずれてしまっていて、日中に取った写真が真っ白け、というミスは何度か犯してしまうものなので注意が必要である。 しかしながら、上記のマイナスポイントなどは GR1s で撮影された写真を一目見ればすべてチャラにしても余りあるほどの高性能と小型軽量故のハイパフォーマンスを秘めているのがこのカメラなのである。 ところが、2003年の 4月20日の時事通信によりリコーがフィルムカメラ事業から撤退することが報じられ、その記事の直後から当時の現行機種、GR1v と GR21 があっという間に店頭から姿を消してしまった。中古市場では一時期海外からの逆輸入ものも入ってきていたが、それも最近では姿を見ることはなくなってしまった。こういう一つの小さな文化とも言うべきものを築いたカメラが、企業の採算という理由で姿を消してしまうとは、まことにもって残念なことなのだが、世の中のコンパクトカメラはいまやまさにデジカメ一色となりつつあり、それはそれで時代の流れに押し流されてしまった形なのだろう。 |
使用履歴 |
RICOH GR1s を購入したのはちょっと遅めの 2000年 11月であった。もちろん以前からこのカメラの評判は知っていたし、コンパクトカメラを求める友人にも勧めたりはしつつも、懐事情に余裕もなく自分では所有していなかったが、2000年の暮れにハワイに出かけるのを機に「サブカメラ」としてヨドバシカメラ新宿西口本店にて購入するに至った。 定評の通り GR 28mm /F2.8 レンズと秀逸なプログラム AE 露出での撮影結果は素晴らしく、メインカメラとしても充分に通用する性能を持ちながら、シャツでも G パンでもポケットに収まるその大きさは登山の行動中のカメラとしても威力を発揮、さらに中判カメラでの撮影時の押さえとして最後に一枚パチリと撮るのにも便利で、撮影システムの中でどこにでも収まりどころを見つけられる優れたカメラなのである。もちろん、日常的にカバンに入れて持ち歩いているのは言うまでもない。 マグネシウムダイキャストのボディーは堅牢で、ハワイのマウナケアで、ゴツゴツの溶岩の上に落としてもなんら故障することもなく正常に機能していたが、レンズ鏡筒部の隙間から埃が入りやすいようで、ハワイの火山の砂埃や、その後の山での使用などからファインダー内に結構な量のゴミが溜まってしまい、2002年2月にゴミ清掃、それと同時に見つかったファインダーのケラレに対するプリズム交換修理を行った。費用は 6,300円。さらに、2003年7月には、レンズシャッターが正常に開かなくなり、鏡筒の作動音も異常とのことでレリーズスイッチその他を交換、液晶表示部調整、各部点検などで 9,200円、さらに、 2004年2月には、鏡筒の繰り出し不良でシャッター羽根が開かなくなり、シャッターユニットの直進筒を交換、各部清掃の修理を行った。ちなみにこのときは自然故障ではないとの診断だったのだが、前回の修理から一年経っていなかったことから好意的にも無償で修理をしてもらうことができた。これらを一見するとあたかも故障が多いかのように見えてしまうが、それは常に持ち歩いているため使用頻度が著しく高いためである。 上記の 2004年の修理からひと月後には PENTAX 67II、FUJI GS645S と共に唯一の 35mm 判カメラとしてヒマラヤトレッキングに携行された。あろうことか、トレッキング初日にして水没という憂き目に会いながらも、非防水カメラであるにもかかわらず 2日後には奇跡的に復活を果たした。さすがにヒマラヤの砂埃の凄まじさにファインダーの中は埃だらけになってしまったが、同様に埃だらけになって二重像合致システムがいかれてしまった上に露出計の表示までおかしくなってしまった FUJI GS645S に対して、GR1s の方は水没しながらも着実に素晴らしい画質で記録を残し続け、その底力をまざまざと見せ付けられる形となった。 構造上の堅牢性だけでなく、言い尽くされたことだが描写性能も大変に素晴らしい。散々苦労して重い中判カメラの機材を山の上まで担ぎ上げ、重厚な三脚にセットして、スポットメーターで念入りに露出を計り、「入魂の一枚だ!!」と思って撮影をしても、押さえのために最後に適当に GR1s でパチリと写した一枚の方が断然よく写っていたなどという経験は数知れず、嬉しくもあり悲しくもある不思議な魅力を持つカメラなのである。 株式会社リコーがフィルムカメラ事業から撤退してしまったことで、今後のサポート体制などに若干の不安があるもの、今後もバリバリ現役で頑張ってもらう必要のある頼もしいカメラなのである。 |
参考文献 |
『RICOH GR1s 使用説明書』 『RICOH GR1s (カタログ)』 (2000年6月現在) 『チョートクのカメラジャーナル Apr. 1998 60』 株式会社アルファベータ (1998年4月1日 発行) 『カメラジャーナル BOOK C 無手勝流 GR1 読本』 田中長徳著 株式会社アルファベータ (1999年5月31日 第一刷発行 / 2000年3月1日 第二刷発行) 『日本カメラ 7月号』 日本カメラ社 (1999年7月1日 発行) 『カメラ年鑑 2000』 日本カメラ社 (2000年1月5日 発行) 『カメラ年鑑 2002』 日本カメラ社 (2002年1月10日 発行) |
PENTAX KM PENTAX K2DMD PENTAX MX PENTAX ME PENTAX LX PENTAX MZ-7 PENTAX MZ-S PENTAX 67 >PENTAX 67II FUJI GS645S Professional FUJIFILM TX-1 RICOH GR1s